恩人であり、お世話になった山野辺進さんの、いわき市内での個展の帰りだった。
せっかくの山野辺さんの絵の感動を、常磐高速をただ走って帰るために消してしまうのがいやだった。
太平洋に沿ってのんびりと海の見える道を走ろうか、とうちの奥さんと話して高速を降りた。
時間はまだ早く、日が落ちるまでには十分な余裕があった。
五浦の近くだったろうか...
道から綺麗な海が見えたので、海への細い路地を入ってみる。
細い道をずっと走っていくと、小さな堤防に出た。
車を止めて堤防に上がってみると、綺麗な砂浜が広がっている。
右に見える崖が綺麗に見えたので、砂浜を崖に向かって歩いて行く。
崖の上には何本かの松が並び、崖下の群青と深緑の混じったような海と、
その上のまだ完全には青く晴れ渡ってはいない、みずいろの空と、
そしてまだちょっと夏には早い、誰も人のいない砂浜...
なんだか胸が痛くなるような、「海の風景」があった。
あの意味もなく胸躍る「夏の海」にはまだ少し早く
でも、海の色にはあの妖しい「夏」の気配が漂っている。
もうすぐここは、「夏」で一杯になり
「夏」の沢山のストーリーと思い出を作り出すんだろう。
静かにこの海は、まもなくの夏を待っている...
(これはブログ「人・酒・旅 イラストレーター渡辺隆司」に発表しているものです。時間があれば覗いてみて下さい。
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