「一人でもラウンドできるなんて..」
ゴルフ界も変わったものだ、とKさんは思う。
まあ、こんな寒い冬の日にゴルフをしようなんて人は少ないはずだから、コースにとっては「いないよりは一人でも客はいた方が良い」という考えなんだろう。
「うん、これはいいショットだ」
あの時とほぼ同じ、ピン左サイドに乗った。
「あいつはピン手前にショートしたんだったな」
不思議なものだ、1番2番とあの時のラウンドとほぼ同じようなショットが続いている。
まあ、あれから上手くなった訳でも下手になった訳でもないんだから、結果も似たようなものになるのは当然なんだけど。
あの時も、同じように寒い冬の日だったなあ...
よし、3番は2パットのパー。
あいつもしぶとく寄せて来て、パーを拾って「分け」だったな。
4番は、ドラマが起こったっけ。
俺が左に引っ掛けて、林にぶち込んだんだ。
あいつは汚え事に、それを見てスプーンで刻みやがった。
俺は頭に来て、無理に木の間を狙って...トリを打って、ここで1ダウン。
アイツめ、腹を抱えて笑っていたな。
「他人の失敗を喜ぶ奴なんて、ゴルファーの風上にも置けねえ奴だ」
「何言ってんだ。俺はお前がカッカして墓穴を掘るのを見ているのが、一番嬉しいんだ」
それでなお頭に来て、次のショートでは大ダフリかまして、2ダウンになったっけ。
いい天気だ。
冷たい空気に囲まれているけど、空は真っ青じゃないか。
さすがに、6番になれば頭も冷えて、なんとか「分け」に出来た。
しかし、お前は小憎らしいくらいに崩れなかったな。
俺の方が飛ぶけど、お前の方が小技とパットが上手いからな。
永久スクラッチなんて言って、ずっとお前とはマッチプレーしていたけど、通算すればお前の方が勝っているからな...まあ、俺が負けるのはいつも自滅なんだけど。
午前中のハーフでは、やっと9番で俺が長いパットを入れて一つ取り返したっけ。
面白いなあ。
今日も同じように、5メートルくらいのパットが入ったぞ。
もう11時か。
...悪かったな。
お前の葬式に参加しないで。
お前が、前に「俺は葬式なんかしたくないんだよ」なんて言っていたのを良く聞いていたんでなあ。
それで今日は、お前と一緒に最後のマッチプレーをしたコースに来ているんだ。
こうやってプレーをしていると、お前が今どんな球を打ったか見えるような気がする。
お前が俺のショットにどんな反応をしているか、わかる気がする。
前半は俺の1ダウン...あの時と同じだ。
午後のハーフは、お前との本当に最後の勝負だな。
さて、10番ホールのオナーは俺だ。
今度はお前には負けないからな。
(続く)。