ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

メジャーの優勝・マスターズ2021

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松山は「牛」だな。

アメリカツアーには、世界中から人間離れした怪物が挑戦してくる。
例えばタイガーを虎とすれば、ゴリラやクマやゾウやサメや、果ては空想上の動物にも対抗しようなんていう化け物じみた能力の選手たちが、栄誉と金を目指して死に物狂いの戦いを繰り広げている。
そんな中に、ずっと以前から日本人のゴルファーも挑戦を続けてきた訳なんだが、日本国内で「怪物」と呼ばれた人材も、この激烈な戦いの場に行くとあまりにもひ弱で非力で、力不足に思えた。
もちろん単発では優勝争いに加わって、現地の報道で「優勝も狙える強いゴルファー」と(お世辞で)褒め称えられる選手も何人かいたけれども、その評価はどこか「上から目線」のせいぜい「良き敗者扱い」までであったように俺は感じていた。

だが今回、松山は全く対等に優勝争いをしているゴルファーとして扱われていた、と思う。
俺の目に見えた松山は、猛獣の群がる中で平気な顔をして草を食っている大きな牛の姿だ。
吠え掛かる猛獣を横目に、引けを取らない体格で腹を出してのし歩く太った牛だ。
...草食獣なのに、道を譲らない。

いいコーチについたんだと思う。
以前のあのおかしな、リズム感の無い、ちぐはぐなスイングは俺は嫌いだった。
日本のゴルフジャーナリズムは、結果さえ残せばそのスイングが「素晴らしい!」と手放しで褒める提灯記事を書き続けるが、あのスイングのどこが一般のゴルファーにも薦められるような素晴らしいスイングなんだ?
そんな雑誌なんかがあのスイングを褒めるものだから、巷のオープンコンペなんかで、トップで無理やり止めてダウンでものすごいスエーをしてミスショットを重ねるゴルフ好きの犠牲者を沢山見かけた。
「あれは松山だから出来るスイングなんだ」という事。
真似して良いことなんか一つも無いって、なぜ書かない?

それがちょっと見ない間に、あまりにスムーズなスイングになっているのに驚いた。
あちらの放送関係者も松山がトップで無理に止まっていないことに驚いていたんだから、最近ついたというコーチの力なんだろう。
これなら俺も気持ち悪くならずに見ていられる。
それにプラスして、この「無理止め」が無くなったためか、構えてから始動するまでの時間が短くなった。
今まではアドレスに入ってから妙にモジモジモジモジしていて、この時間が物凄く長いことも俺は嫌いだった...要するにスイングのリズムの全てが気持ち悪いから松山の試合を見なくなったんだけど、このマスターズでは本当に別人のリズムに変わっていた。
特にショートアイアンのリズムが良い。
インパクトでキレを感じて、その打球音が実に気持ち良い。

 

...で、優勝した。
まず、何よりもパットが良かった。
これだけパットを入れる松山を見たのは、記憶に無い。
先に書いたようにショットのリズムが良かったが、ただロングショットでたまにトップでちょっと止まる時があり、特にティーショットで止まった時には大きなミスになっていた。
しかし、大きなミスになりそうなトラブルのほとんどをパットでカバーできる程、今回はよくパットが入った。


そして何よりこの大会は、「流れ」というものが本当に松山に味方したと思う。
この「流れ」...多分オーガスタの神様が牛が好きだったんだろう。
松山のミスショットが「最悪」には決してならない事、ショットに「アンラッキー」と感じる結果が無かった事、松山が崩れそうになると追いかけているゴルファーが先にミスをしてくれる事...
リズムの良い、フェアなゴルファーと決勝ラウンドで組むことができた事。
(リズムの合わないニック・ファルドの前で自滅したノーマン...)
天気と観客の声援が松山に余計なプレッシャーをかけることが無かった事。
タイガー・ウッズの応援団と決勝ラウンド中に喧嘩したモンゴメリー...)

途中4打差も5打差もつけながら、サンデーバックナインでモタモタして、最後のホールの最後のパットまで気を揉ませてくれた「勝ち方」はともかく、このマスターズに優勝出来たことは本当に大きい。

これで松山は、自分で「もう満足なプレーが出来ない」と言うまで、毎年必ずこのマスターズに出場出来るのだ。
彼の栄誉は生きている限り、オーガスタナショナルがある限りここで称えられるのだ。

かって、10年以上続けてマスターズに出場していた青木功が「マスターズに呼ばれなくなる事は、華やかな世界から置いて行かれて見捨てられたような気がする」とその寂しさを語っていたのを覚えている。
...19回出場の尾崎も14回出場の青木も、ついに優勝争いに絡むことは無かった。

 

渋野の全英女子オープン優勝も凄いが、この松山のマスターズ優勝は、およそ世界のゴルファーたるものの望む「一番幸せな優勝」だと俺は思う。

 

松山は、世界一幸せなゴルファーになった。


スイング改造に、乾杯!。