ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

冬のショット(2)

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不思議なものだな。
こうやってお前とマッチプレーをするようになって、もう20年以上か。
お前のゴルフの強みも弱みも、お前自身より俺の方が知っているというのに、お前の個人的な事は殆ど知らないんだよな。
勿論仕事とかは知っているし、奥さんにも会った事はあるけど、どういう風に生きて来て、どういう風に結婚して、どういう風になりたいと思っていたかなんて、全然知らないんだよな。
お互い様だけどな。

始めは月例で同じ組になって、同じスコアで上がって同じハンデだと知った。
その月例が終わって帰ろうとしていた時に、お前に声をかけられた。
「Kさん、来月も一緒にやりませんか?」
翌月、また一緒の組で月例に出て、それでまた同じスコアだったときから、二人で「永久スクラッチ」でニギろうと言う約束をしたんだったよな。
勿論、勝っても負けてもたった千円の可愛いニギリだったけど、勝ったり負けたりが面白いように入れ替わったので気合いが入ったっけ。

おっと、スライスして池に入ったか...
そういえばあのときだって12番から、取り合いになったんだな。
1ダウンして追いついて、1アップして追いつかれて...
17番で、またオールスクエアだ。

18番はお互いに3オン。
俺が5メートくらい、お前は1・5メートルくらいにつけたっけ。
俺のパットがカップを舐めて外れて、お前が1・5メートルを入れてお前の1アップで、お前の勝ち。
飛び上がって喜んでいやがったな。
俺もあんな口惜しい千円はなかったよ。

それから間もなく、月例に行った時にお前が入院したと聞いた。
次の月例の時にも出て来なかったので、コースにお前の連絡先を聞いて初めて事情を知ったんだ。
入院先に訪ねて行くと、お前は嫌な顔をしてたな。
「お前にだけは、俺の弱った所を見せたくなかった」とか言って。
でも、「もう少したったら良くなるから、俺が退院するまで首を洗って待ってろよ」だって。
おまけに「通算では俺が勝っているんだから、もっと俺に敬意を払え」
「敬意を払ってるから、こうして見舞いに来たんじゃないか。勝ち逃げは許さねえからな。」

結局、あのラウンドが最後になっちまった。
葬儀の通知なんて破り捨てたよ。
結局勝ち逃げしやがって。

...面白いな、18番はまた俺は3オンで、5~6メートル残しちまった。

そうか、これを入れると俺の勝ちだな。
あの時だって、俺がもし入れたらお前は絶対に外していた。
ずっとお前と戦って来た俺だからよくわかる。
お前はそういう奴だ。

「よし、これでどうだ!」
またあの時のように左に切れかかったけど、今度は気合いが違う。
カップ左目から...
「いい音だ」

やっぱりお前は外したな...ざまあ見ろ、これでまたお前と俺とはイーブンだ。

さっき、カップに転がり落ちたボールの音を聴いた時、思わず右手を高く上げてしまったけど、見ていたか?
お前が拍手していたのが見えたんだ。
憎たらしいけど、そういうところは潔い奴だったもんな、お前は。

俺はまだしばらくこっちのゴルフを楽しむつもりだ。
マッチの決着は、俺がそっちに行くまで待っているんだな。
まあ、まだ当分行くつもりは無いから、それまでに得意の小技を磨いておけよ。

もうお前はあの雲になっちまったのかな。

馬鹿言え!
俺はお前のためになんか、泣いてねえよ。