ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

スーパーウルトラ万能クラブ

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そのYさんと会ったのは、数年前のT県のオープンコンペ。
はじめは70歳近いと思われたけど、その後のプレーを見ていると60前後だったかもしれない。
それほど大きくない身体だし、センスがいいとも思われなかったのに、上がってみると79で回っていた。

日に焼けた様子で、かなりラウンドを重ねていると判る。
...しかし、何よりも驚いたのはそのクラブ。

ドライバーは、ちょっと前に流行ったものだし、アイアンはキャロウェイの普通のクラブ。
パターはピンタイプの古いもの。
そこまでは普通だけど、1本だけ古いメタルのフェアウェイウッドが入っている。
見た所、ヘッドが異常に小さい...聞くと、パーシモンから金属ヘッドのウッドに変わりつつあった初期の頃のメタルウッドだと言う。

「マルマンダンガンとかありましたよね」
「あの頃の、安売り店で売っていた偽物クラブなんですよ」
「ゴルフに熱中し始めた頃で金もなかったし、ともかく練習場でこのクラブばかり練習していたんです」

古くて、錆びだか汚れだか判らないネズミ色したウッド。
ソールには4番と描いてあるが、聞いた事の無いメーカー?らしき名前が入っている。
シャフトはダイナミックのRらしい...ラベルも無いので良くわからないスチールシャフト。

フェースもソールもクラウンも擦り傷だらけで、汚い事この上ない。
グリップもすり減って指の跡が凹んでいる。

「いや、このクラブ、何でも出来るんですよ」
「150ヤードから180ヤードくらいを打ちます」

...そんなものじゃない。
このオヤジ、ちょっと遠いバンカーだって、林の中から出すんだって、ラフからだって、ベアグランドだって、池に入りかけたボールだってこのクラブで打つ。
アプローチだって、フェアウェイ100ヤードだって、花道50ヤードだって、みんなこのクラブを使う。
長く持ったり、短く持ったり、シャフトを握ったり。
フェースを開いてこすったり、フェースを閉じてトップスピンをかけて転がしたり。
パンチショットのように打ったり、インパクトで止めて引いたり。
おそよ打ち方もかっこ良くないのに、実に上手くボールを操る。

ちょっと気になって見ていたら、殆どのホールでドライバーとこのクラブとパターで済ましている。
アイアンを普通に打つなんて殆どしない。

「始めた頃からこのクラブで練習して、それ以来ずーっと使っているんで、慣れているんですよ」
「どのくらい打ったらどのくらい飛んで、どこくらい転がるか...このクラブなら判りますけど、他のアイアンやなんかじゃ判らないんです」
「なんで、ついこのクラブばかり使ってしまうんですよねえ」
「別に特別飛ぶとか、打ちやすいとかじゃなくて、このクラブを一番知っているんで」

「安かったですよ、ダンガンよりずっと安いメイドインチャイナだって聞きましたから」
「はじめは、そんなバチモン使って、なんて言われましたけど、今じゃ誰も何にも言いません」

ゴルフには二通りの方法がある、と言われている。
1、同じスイングで道具を変える。
2、同じ道具で打ち方を変える。
...例えばアプローチで、同じ打ち方で、ライや距離によってサンドやピッチングや7番を使う。
あるいはサンド1本で、転がす、上げるなどを打ち分ける。
どちらが良いかはプロでも分かれる所だ。
多くはシンプルなスイングでクラブを変えた方が易しいと言うが、同じクラブを使い慣れる事で自信が身に付くとも言う者もいる。

多分「近代ゴルフ」じゃないんだろうけど、こんなオヤジに会うと、「自分流スーパーウルトラ万能クラブ」1本引っさげてコースに立ち向かうのも...なんだかカッコいい、なんて思ってしまう。