ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

歩く男

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Mさんは、毎日必ず1時間以上は歩く。
仕事がある日は,会社の一駅前で降りて歩く。
仕事が早く終わって,家に帰って時間があれば歩く。
休日は2時間以上は歩く。
月に一度はぶっ通しで4時間以上歩く。
それもただ歩くのではなく、デイパックを背負って歩く。
そのデイパックの中には,砂を入れた袋が2つ入っていて,両方で15キロほどになる。
やはりそれで2時間も歩くと,冬でも結構汗をかくし息も上がる。
道すがら出会う中高年のウォーキングしている人たちは、眉間に皺を寄せて必死に歩いている様子のMさんに、驚いた顔をして道をあけてくれる。

...自分でも,ちょっと滑稽な姿かな,とは思う。
でも、Mさんには目的がある。

それは,ホームコースのクラチャンのマッチプレーで1勝すること。

15年ほど前から始めたゴルフは,運動神経がそれほど良くなかったMさんに、新しい世界を見せてくれることになった。
運動神経に自信がないために最初から練習場のレッスンプロに教わって始めたのが良かったらしく、順調に腕を上げてきて、10年ほど前にホームコースを手に入れると3年ほどでシングルになれた。
小さい頃から体力に自信がなかったために,体育でいい思いをしたこともなく,スポーツは自分には縁がないと思い込んでいたMさんに、ゴルフは人よりも上手いと言われる喜びと,体力ではとても敵わないと思われる男にもスコアで「勝つ」喜びを味合わせてくれた。

しかし、それは「月例」までだった。
腕に自信を深めたMさんは、シングルになってから毎年クラチャンの予選に参加するようになった。
まるで違う世界と思っていた,クラブハウスの壁に飾られる「クラブチャンピオン」の称号が、自分にも手の届く所に来たと感じられたからだった。

しかし,甘くなかった。
クラチャンの予選は,ストロークプレーなので通るんだけど、マッチプレーが勝てない。
自分より上の人は勿論,ハンデで自分の方がずっと上だという人にも,マッチプレーで勝てない。
前半リードしていても、後半に必ず逆転されるのだ。
当然リードされたら,もう逆転する力はない。

マッチプレー全敗の原因は,自分には判っている。
体力がないのだ。
勝っていて前半をリードしても、後半になると自分の体力が目に見えて落ちてくるのが判る...まず息が上がり,集中力がなくなり,気合いが入らず,ミスが多くなり,自滅する形で負けてしまう。

それで体力をつけようと心に決めたのだ。
1ラウンドどころか,2ラウンド続けて回っても集中力が切れないくらいの体力を。
そのために、どんな日でもハーフ2時間は歩き通す。
出来ればラウンド分の4時間以上。
こうやって体力をつけて,今年のシーズンこそはマッチプレーでの1勝を目指す。
1勝さえすれば,きっと自分はもっと上に行けると信じてるから、すれ違う中高年のウォーカー達に怪訝な目で見られたって,自分は眉をしかめてハーフ分やラウンド分の時間を懸命に歩く。
マッチプレーに勝つために」と呪文のように呟きながら。

自分のこれだけの努力は,きっと今年こそ結果を出してくれるだろうとMさんは思っている。
...でも最近は、「歩く」こと自体が楽しいような気分になっている「自分」が居るのも感じている。