ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

誇り高きオス野良猫

イメージ 1



ユズはあまりに生命力が弱い猫なので、ずっと「家飼い」としているのだけど、家の周りには何匹かの野良猫がいる。
その中でも一番懐いているのがこの白い雄猫、通称「シロ」。
一番初めの頃は「白」どころか泥まみれで灰色の体に、向こう傷で血のあともあちこちにあり、ボロボロガリガリのボロ切れのような猫だった。
結構歳の言った雄猫で、うちの玄関の軒下で雨宿りしていたのをうちの奥さんが見つけた。
そのあまりのボロさに哀れを感じて、ゆずの残した餌をあげたところ用心深くではあったけれど「あっという間に」息もつかずに平らげてしまったとか...
それからは何日かおきに玄関先で静かに座っているようになり、残りの餌を皿に入れて出すとチラチラとうちの奥さんの方を見ながら全部食べて、静かに去っていくことを繰り返していたらしい。
根っからの野良猫らしかったので、いつまで生きられるか、冬を越せるのか、など心配していたようだが、他のどこかでも餌をもらっているらしく、見るたびに綺麗にはなってきたんだとか。

そうして2年以上...しばらく姿が見えないと「あいつ、生きているのかなあ」なんて心配し、ひょっこり顔を見せれば「おお、生きていたか」なんて安心し...
ユズのように保護された猫と違い、一人で生きてきた猫はどこか誇り高く見え、ユズのように何かをせがんで啼くなどということは絶対にしない。
ただ静かにじっと待っている姿はいいものだ。

そんな猫が庭先で待っている時に、網戸越しにユズと御対面ということが何度かあった。
ユズと言う猫は、世間慣れしていないせいか普通に近づいて顔を寄せていく。
別に敵意はないのだが、好奇心と興味はあって、不思議でしょうが無いのだろう。
黙って待っている猫と、それが不思議でいつまでもどこまでも近づいていく猫(もちろんいつも網戸が間にあるのだが)。

一度、あまりに近づいて行き過ぎたユズに、白猫がうるさくて我慢できなかったのだろう、飛びかかるように網戸に手をついて立ち上がったことがある。
そう「飛びかかる」ように...ゆずは心底びっくり仰天、網戸のこちら側で後ろに1メートル以上飛び上がって尻尾を巻いて逃げた。
あら、白猫もついに切れて怒ったか...なんて思ったが、よく見るとこの白猫全く爪を出しておらず、網戸に肉球を当てて立っているだけ...つまり、無防備に距離を詰めてくるユズを驚かして追い払っただけって訳だ。
...その間一言も発せず、唸りもせず。
そしてユズが吹っ飛んで逃げた後、何事もなかったように同じ場所に静かにまた座りこんで、静かに普通の顔で待っている。
その一部始終を見ていた我が家の面々は、ユズの驚きように大笑いした後、すっかりこの薄汚れたオスの白猫のファンになっちまった。
そう、汚くてボロボロの時が多い白猫に、何か誇り高い貧乏侍を見ているような、そしてその生き様に共感して。

酒飲みながら俺は思う...俺も猫に生まれたら、あんな風に生きて行けたのかしらねえ...まあ、自信はハッキリ言って、無いな。