自分じゃ気にしていなかったけれど、これは仕事の上では結構大事な事だったらしい。
強いて言えば、東京デザイナー学院と言う所に入りはしたが卒業はしていない。
ただ、そこで出会った「クロッキー」が人生を変えた。
美大を出ていない俺は、実は本格的に石膏デッサンをした事がない。
全ての元は、ただひたすら人物クロッキーを描く事で作り上げて来た。
ただ、ヌードクロッキーなどと言うのはちゃんとした「会」に入らないと、モデルの手配やら描く場所やらが面倒で個人では難しい。
まだ20台の半ば過ぎだったか...ある会で知り合った同じ年のTと言う男が、自分の会社でクロッキー教室をやるから参加しないかと誘われた。
それ以来10年以上、場所は銀座のど真ん中、Yと言う大きな広告代理店の一室で、定時のあと夜に2時間程クロッキーをやり続ける事になった。
今、思えばここに来ていた人々は口コミや友人の紹介で職業は種々雑多であったが、いずれも若い美術に興味を持った魅力的な人々だった。
この会は芸大出身のSさんと言う上手いイラストレーターが中心となり、初心者達に基本的な事を丁寧に教えていたりしたので、若く美しく魅力的な女性が多く参加し、終了後は何時も楽しい飲み会となった。
もちろん、会の中で結婚した人もいたし、仲良くなって別れた人もいた...思い返せば、絵に書いた様な青春の物語の1ページだった。
そんな華やかで楽しかったクロッキー会は、主催のT氏が40歳を機に退職してフリーになると言う事で終わった。
もう、それから30年近く経った。
8年前には20年振りの同窓会もやった...それぞれ年をとったが、魅力的だった女性達はいずれも奇麗に年をとっていた。
そして、クロッキーが華やかだった当時も、8年前の同窓会でも、9月に先に逝ったあいつが宴会の中心人物だった。
いつも真っ先にハイになり、真っ先に陽気に酔っぱらう。
美人が好きで、ともかくきれいな女性の横で飲みたがる。
6日に、前回から8年振りのクロッキー同窓会が開かれた。
20人程の、元美男美女(勿論俺は除く)が集まった。
誰もが、あいつがいない事を悲しんだ。
いきなりのあいつの旅立ちを悲しんだ。
お前のおかげで同窓会は送別会になってしまったが、同時にお前のおかげで「会いたい人には早く会わなければ、もう会えなくなる」とみんなが思い知ったようだった。
一期一会、諸行無常...明日に伸ばせばその人にはもう会えないかもしれない、と。
もう何年も時を空けるのはやめて、会える人だけでも毎年会いたい、との声多数。
...まあ、酒飲む口実なのかもしれないが。
これもお前のおかげかな。