Sさんは30代後半にゴルフを始めて、すぐに熱中し、それから既に30年のゴルフ歴になる。
一時はシングルハンデにもなり、飛ばしとパットに自信を持っていた。
仲間との年4回のコンペでは、ドラコンは常に一つは獲っていたし、4~50人程の参加者の中で常に上位10人に入っていた。
しかし、その自慢の飛ばしも60歳を越えてからは40代の若いメンバーに勝てなくなり、上位に入る事も少なくなって行った。
それと同時にプレー態度が色々言われ出した。
元々良く言えば情熱的、悪く言えば短気な性格で、思い入れが強過ぎる為かナイスショットには大喜びしミスショットには酷く落ち込み、悔しがる。
....これが態度に出ると、クラブを地面に叩き付け、放り投げ...怒り、嘆き、愚痴を言う。
ただ、仲間には彼がプレーに夢中になるあまりの行動だと判っているので、苦笑と共に「Sさんがまたやっているよ」「しょうがないなあ」なんて言われて大目に見られていた。
もちろんそんな行動の数々も基本的に回りに注意しての行動なので、同伴競技者がスイング中だとか、その視線の先だとか、他人のプレーの邪魔になるタイミングでは決してしないところも大目に見られている原因だった。
そのSさんの「仲間の伝説となる」様な行動が知れ渡ったのは、ごく最近の事だった。
...以下伝聞である。
プレーに熱中して来ると、ショットのミスに頭に着てクラブを叩き付けるなんて行動をするのだから、当然パットのミスにも同じ様な行動をする。
ただ、パターを叩き付けて壊してしまうとその後のプレーに影響するので、そこ迄はしない...こんな所もカッカしているように見えて、内心は醒めているんだろうと思っていた。
が、そんな日には後日談があったのだ。
そんな風にパットの出来が悪くて、どうにも入らずにスコアを落とし続けたラウンドの後だ。
彼の部屋には、壁際にエースパターをはじめとして、数本のパターが立て掛けてあるのだそうだ。
彼は感情を抑えて、その日使ったパターをそれらのパターの前で取り出す。
そして静かに語り出すのだ。
「そのパターがどんな風に入らなかったか」「どんな大事な場面でミスパットになったか」「どんな風に思った通りに打てなかったか」。
そして、自分が「どんな風に傷ついたか」。
語っているうちにだんだん声が大きくなり、感情が高ぶり興奮して行く。
そして、その絶頂で
「えい! このヤロー!」
と、そのパターをへし折るんだそうだ...
そして....折れたパターを、その立てかけてあるエースパターをはじめとする数本にすっと差し出しながら見せつけ、「いいか、よく見ておけ!」とじっくりと言い聞かせるのだと。
「入らなかったら、こうなるんだ!」
「わかったか!」
その話を最初笑って聞いていた会の男達は、だんだん静かに酒を飲むようになった、とか。
その言い聞かされたパターが、その次のラウンドでしっかり働いたのか、または続いて公開死刑になったのかは...私は知らない。