ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

悲しみのイップス...1

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ゴルフと言うのは業の深いスポーツだと思う。

スポーツと呼ばれるものの殆どは、地道な努力と練習で上達して行く。
勿論、良い教本や指導者に出会えれば無駄な遠回りをする事が少なくなり、より一層上達のスピードは速くなるし、個人の元からの体力や運動神経に寄っても上達のスピードや到達点は違ってくる。
そして上級者になるとその実力は(身体を故障しないように注意すれば)、油断して怠けない限り安定している。

ところがゴルフは違う。
真面目で努力と練習を怠らず、傲慢にもならずに謙虚で心優しいゴルファーの何割かに「イップス」と言う名の悪魔が襲いかかる。
よく「下手なゴルファーにイップスなんて無い、ただ下手なだけだ」と言うプロや上級者がいるが、これは違うと思う。
イップス」と言う言葉を下手な人間が言い訳に使う事は本当に多いが、「それほど上手くない人でもイップスになる事はある」と私は断言する。
そういう人には共通点がある...ゴルフに本当に真面目に誠実に、自分の人生をかけてまで一生懸命に取り組んでいる人がなりやすいのだ。
いいかげんにやっていたり、他にも趣味や遊びがある人がなる事はまず無い。

プロゴルフの世界では「イップス」というとイコール「パット」だけど、アマチュアの世界ではパットのイップスの人は殆どいない...アマで自分で「パットのイップスだ」と言う人は、本当は単にショートパットが下手なだけというのが殆ど。

プロの世界のイップスと言うのは、以前二人のプロの姿を目の前で見た。
一人は、もう有名になってしまった青山薫プロ。
ニッカンゲンダイの連載用の取材で、まだ世間に知られていなかった青山プロをマーク金井氏と二人で当時の彼の所属コースに訪ねた。
名前を見ると女性かと思える様な優しい印象に、出て来た本人はまるでゴリラか類猿人...その厳つい身体と強烈な顔、その奥に優しそうな目が覗いている、そのインパクトは強烈だった。
当時の取材は大抵ラウンドをしてからだったので、一緒にプレーをして...驚いた。
それまでに自分は沢山のトーナメントプロやトップアマの取材で一緒にラウンドして来たが、青山プロのショットは飛距離も正確性も一番凄かった。
何よりアイアンショットのキレが良く、2番3番アイアンで200ヤード前後のショットが殆どピンに絡む。
「なぜこんなショットを持っている人がツアーで活躍していないのか」と疑問を持ったけれど、グリーン上でその理由がすぐに判った。
ワンピン前後についたパットは、一度も入る事はなかった...それだけでなく、1メートル前後を残したパットが...入らない。
50センチを切るパットでさえ入れるのに必死の形相で、入れたら本当にホッとする表情になる...何回かはそれも本当に外してしまう。

この取材がきっかけになって彼の名が知れ渡り、後にゴルフダイジェストで「怪人イップス」のシリーズが始まって人気者となって行った。
この取材の後で、青山プロからきちんとしたお礼の手紙が届いた。
かの風貌に反して、本当に真面目で誠実、そして優しいのだ...そして、多分それこそが彼のイップスの原因となっていると私は思っている。
良く私が書く事だが、一般に「嫌なヤツ程ゴルフが上手い」という言葉が知られている。
今はどうだか知らないが、当時の取材などで知り合ったプロで「いい人」「誠実な真面目な人」「気遣いの出来る人」と言う印象の人に、パットに問題を持つ人が多かった。
パットが上手い、強いと言うプロには、横柄で傲慢で言葉遣いも出来ず、ゴルフが上手けりゃ何もかもが偉いなんて考えている様な、殴ってやりたい様なプロが多かった。
「こいつからゴルフが上手いことをとったら、ただのチンピラだ」なんて言う奴が、大きな顔で威張りくさっていた...(まあ、そんなプロは殆ど今は消えているけど)。
でも、そんな奴程勝負のかかった難しい距離のパットを、平気な顔で入れてしまう。

それに対して青山プロの様な人は、ショットのキレが良くて殆どのホールでチャンスにつく故に、入れ損なった記憶が大量に積み重なって、(真面目で真摯であるが故に)その後悔や反省がますます自分にプレッシャーをかけてしまうのだろう。

私が昔いたコースの所属プロも、やはり素晴らしく良い人で人望があった。
彼は飛距離は出ないけどショットメーカーで、やはりピンに絡むアイアンをビシビシ打って来た。
しかしやはりパターが入らず、50センチのパットでもボールの後ろに座って、まず両手でパターのフェースを打ちたい方向に合わせてからそっと立ち上がり、フェースの方向を変えないように気をつけながらグリップしてそれからパットする、と言うことを毎回やっていた。
普通に立ってしまうと、ほんの短い距離なのにパターや自分がどこを向いているのか判らなくなる、と聞いた事があった。
その姿はまるでゴルフを始めたばかりのゴルファーの姿のようで、見ていると心が痛んだ(やはりショットが良いだけに毎ホールチャンスにつけて、毎ホールそう言う動作を繰り返して、そして外し続けていた)。
...ずっと以前に1勝はしたそうだが、当時はもう試合で結果を残すことは出来なくなっていた。

ゴルフはショットとパットという、全然違う方法で違う心構えでボールを打たなければならない(パットもショットも同じと言う意見はあるが)...それが、心優しいゴルファーを壊してしまう。

ただ、本物のイップスはショットが良いが故に起きやすいのだから、ショットで苦労している凡ゴルファーにはあまり関係ないと言うことは覚えておこう。

我々レベルのパットでの「イップス」の9割は、単に「ショートパットが下手なだけ」。
練習もしてないのに「イップス」だなんて軽々しく言わないこと。

マチュアの本当のイップスは...次回に。