ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

84歳のパンチショット  (2017年1月19日)

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オープンコンペに一人で参加していると、実に様々な「他の場所では絶対に無い」出会いがあって面白い。

関東地方北部の、初めてラウンドするコースでのオープンコンペだった。
天気予報が気になって、ネットでエントリーしたのが二日前...幸い空きがあるとかで参加する事が出来たが、何とコンペのトップスタート。
いずれも一人参加の「直前申し込み」の人ばかり、とあとで知った。

朝、カートの前で挨拶すると私ともう一人が「このコース初めて」で、もう一人が「二度目です」。
そして、朝からコースの人と豪快にお喋りして笑っていたベテランゴルファーが「ここは私の庭の様なもんです」。

彼を除いた3人はいずれも60代で、そのベテランゴルファーは「ひょっとして70代ですか?」の質問に「ワッハッハッハ」...答えない。
スタートすると、みんな腕は見似た様なものとわかる。
Aさんは、このコースは初めてだけど年間50ラウンドはすると言う悠々自適のゴルファー...「いつも一緒に回る仲間が、このコースは意外と良いぞ」と言っていたんで、来てみました」
少し若いBさんはこのコースは二度目だが、「ずっと昔だったんで、全然コース覚えていません」と言う、新兵器ばかりで武装した熱中ゴルファー。

で、問題のこの人。
「俺ァ、70歳なんかずっと昔に過ぎちまったよ」なんてカンラカンラと高笑いして、ボールを引っ叩く。
「俺ァ、今年で84だよ!」
で、バッチーン。

年を聞いて絶句する3人に、「もう年だから、飛びやしねえよ」と言いながら、バッチーン!
確かに年の為に身体が硬くなっているようで、身体を奇麗に捩じれない...右にターン知れば身体ごと、インパクト以降は状態と一緒に右足も回ってしまうので、とてもフィニッシュの格好は良くない。
が、驚くべきはそのインパクトの強さ...実にいいタイミングで上から叩き込む。
そのインパクトの強さのわりに飛距離は出ないが。
ドライバーも上から叩き込むので、やはりインパクトの音はいいけれど..200ヤードにはとても届かない。
しかし、4番アイアンからウェッジ迄アイアンはいずれも奇麗にダウンブローで叩き込む...見事なパンチショットになっていて、インパクトの形は美しい。
ボールは年寄りじみた「ポ~ン」と言う弾道ではなく、「バシュッ」と言う音で低くいい感じで出て行く...悲しいかな、パワーが足りずに途中で失速気味で伸びは無いが、「若い頃はさぞかし良い弾道で飛ばしていたんだろうな」と思わせる。

「すげえなあ」
「70代でゴルフやっている人は凄いと思ってたけど、なんだよこの人バケモンかよ」
「80越えて、アイアンでしっかりターフとって、インパクトであんないい音出せるなんて...」
「確かに飛ばないけど、フェアウェイ外さないぜ」
「もっと飛ばして、ドラコン本気でとるつもりみたい...!」
「俺は、あの年になった時にゴルフ楽しんでいられるかなあ」
「いや...俺は絶対に、あの年まで生きていないよ」


実際に目で見なければ信じられない現実だった。
あのレジェンドのプロゴルファー達だって、80を越えるといかにも「年寄り」のゴルフスイングになってしまうのをテレビで見ていた。
確かに身体が硬くなっている為に奇麗なフィニッシュにはならないけれど、あれだけ強く「ボールをヒット」している80代のゴルファーには初めて会った。
以前、やはりオープンコンペで一緒になって、私に「60代は俺に言わせりゃ、まだ若造だ!」と言った80歳越えの「柔道の先生ゴルファー」も、スイングはポーンポーンと当てるだけのゴルフだったし。

80歳を超えてのゴルフ....今の自分には想像もできない。
その年まで生きていると言うイメージも無いのに、その上ゴルフを一人でプレーしに来て、「全ショット・ボールをハードヒット」出来るなんて...

彼はラウンド中ずっと豪快に笑い、私の変態曲げショットに「いやあ、あんたは面白い!」と歓声を上げ、パーオンやパーパットを逃すと子供のように悔しがっていた。



スコアはともかく...60代3人はラウンド後、彼に深く最敬礼した。

そして、顔を見合わせて深くため息をついた。
「まいった...」