ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

再びの銅下メッキへの愛着

イメージ 1

最初にお断りしておくけれど、これは「上手くなるため」の道具の話ではない。
むしろ、スコアは悪くなる可能性の方が高い話なので、スコア重視の方には関係のない話。

ゴルフを初めて30年余、自分はたくさんのアイアンを使ってきた。
はじめはロジャースのバーゲン初心者セットのよくわからないメーカーのアイアン。
低重心でスチールのSシャフト...これで3ラウンド目に100を切り、半年後に85で回った。
その後、ミズノやトミー・アーマーの上級者用アイアンを使わされ、シングルになるならベン・ホーガンのディケイドがいいと勧められ....

競技ゴルフでハンデが8になった頃、これからは科学的なこういうアイアンでなくては、とピンアイ2プラスの1番からLWまでを揃えて使ったり...
それでハンデが6になると、またオーソドックなアイアンが使いたくなり...とは言っても、みんなが使うアイアンは嫌だとダイワノアドバイザープロ7000にしたり。
確かこのアイアンは銅下メッキが売りだったように記憶している。
(その頃のアイアンは、既に公害問題などの影響で銅下メッキをしたアイアンが作られなくなっていた)
そのアドバイザープロはしばらく使ったけれど思ったより打感が固かったので、その頃発売された同じく銅下メッキが売りのダンロップの限定発売のプロモデルアイアンに買い替えた。
これが以前書いた、「ライ角とロフト角調整」でめちゃくちゃにされた高い買い物だったアイアンだ。

なぜ「銅下メッキ」にこだわったかというと、その頃はボールが糸巻きボールからツーピースに変わった頃で、ボールが堅いものばかり(まるで石ころのようだった)なので柔らかい打感のアイアンを探していたから。
それが、その頃はやらなくなった銅下メッキを施したアイアンなら、より柔らかい打感になると思っていた。
当時の宣伝文句がそうだったし、使っている人間にもそう聞いていた。
しかし、本当は(科学的には?)昔のアイアンが柔らかかったのは、わずか何ミクロンかという厚さの銅下メッキのせいではなく鉄自身の材質の違いであったんだけど。
それに昔のアイアンに銅下メッキしてあるものが多かったのは、あくまで最上層のメッキの仕上がりの美しさのためだったとか。
メッキの技術が進歩してからは、銅下メッキの必要がなくなったので使われなくなったらしい。

それが判っていても銅下メッキのアイアンが使いたかったのは、昔出会った老ゴルファーのアイアンが実に奇麗に使い込まれていて、フェースの打点の周りが薄赤く輝いていたのを見たから。
飛ばないけれど球を操り、楽しそうにゴルフをする様は自分の憧れのゴルファーの姿となった。
その人が使っていたのがスポルディングの赤トップ。

そして間もなく、偶然「クラシックの黒トップを買わないか?」という話が飛び込んだ。
当時の貯金をかき集めて2番からSWまでの状態の良い黒トップを、それで手に入れた。
赤トップで気になっていたフェース面のドット模様が無い、すっきりとした顔が凄く気に入った。

それでも、シャフトがダイナミックのRだったために、当時すぐ使う気はなく20年以上大事に保管していた。
その後、新しく出てきたキャロウェイのアイアンを買ってはすぐに売り飛ばし、クリーブランドのバスアイアンを少し使っては売り飛ばし、三浦技研製やらパーソナルやら、評判になったアイアンをいろいろ使ったあげく、最近になってやっと保管していた黒トップを使う事に心が決まった。
買った当時「年を取ったらこれを使おう」なんて思っていたのが、その通りになったという訳だ。

スコアには結びつかない。
なにしろ練習嫌いの身にはミスの許容範囲のごく小さいスクープソールに、笑っちゃうほど長いネックのおかげで見た目よりずっと高重心のクラブだ。
それでもちゃんと当たったときの打感は(今のV1Xのボールなんかでも)、うっとりするほど柔らかい。

そして、そして、肝心の銅下メッキ。
実はここまで銅の赤が出てくるには、10年も20年も使い続けて、毎年50ラウンド以上毎日何百球と打たなくてはいけないらしい。
あの時、老ゴルファーに「どれだけやったら、そんな風に奇麗な銅の色が出てくるんですか?」と聞いた時、彼はニヤッと笑っただけだった。
後年あるプロとのラウンドの時にふと見ると、そのプロのアイアンはまだ新しいものなのに打点が丸く光ってそこだけ使い込んだようになっていた。
「まだ新しいアイアンなのに、それだけボールの跡がつくにはどれだけの数ボールを打てばいいんですか?」
「それは秘密です」
「??」
「...これは実は、細かい目のヤスリでそっとボールを当てたいところを擦っているんですよ」
「そうすると、そこで打つという事に集中できるんです」

そういえば、今まで使った銅下メッキアイアンなんて、いくら打ったってボールの痕なんてつきやしないし、銅なんかまったく見えてくる気配も無かった...

という訳で、その晩黒トップのフェースを一番目の細かい目の紙ヤスリで、そっとそっと擦り続ける私の部屋の明かりは朝までついていた...(笑)。
この作業はフェース面の色が一寸でも変わったのが判ったらやめ...そのあとはそこでボールを打って自然に銅が出てくるのを待つ...だったんだけど、その後の自分のラウンド数とボールヒット数ではその日からほとんどフェースの状態は変わっていない。
これ以上紙ヤスリを使う気はないから、自分のゴルフ人生のうちにはこれ以上銅が出てくる事は無いかもしれないなあ。

でも、それが自分のゴルフ人生なら、それでいいんじゃないかと。

銅下メッキが、最後にゴルフクラブを置く時にどのくらい出ているか...そんな楽しみが、今の自分にある。