ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ずるずると...

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ずるずると、坂道を加速しながら滑り落ちていくような気がしている。
...Fさんは、自他ともに認めるスポーツマンだった。
はじめは野球、続いて柔道、ソフトボール、それに登山とスキー、スケート、水泳、それに市民マラソンまで、いつも何か体を動かしてスポーツを楽しんできた。
どのスポーツもそれなりに優勝経験があったし、優秀な成績を表彰された事も何度もあった。
もうどの競技もシニアクラスではあったけど競技にも参加して、まだまだ自分ではアスリートだと思っていた。
もちろんゴルフも30代から始めてはいたが...このゴルフに限ってはFさんと相性が悪かったのか、上達しなかったし夢中にもなれなかった。
まあ、上手くなれなかったので興味も薄れていったという方が正しいけれど。

その、「スポーツ」が急にできなくなった。
昨年の春、いつものように朝1時間ほどジョギングをしている時に、急に胸に痛みを感じた。
すぐに治ったけど、何度かそういう事があったので不安になって医者に行った。
その医者曰く
「軽い狭心症の発作を起こしたようです。不整脈もありますし、ジョギングなどの強めの運動は控えてください。」...そんな意味のことを言われた。
今は命に別状あるようなひどいものではないけれど、悪くなればもちろん心筋梗塞などを起こす可能性があるとか。

Fさんは、驚いた。
70に近い身とはいえ、それほど太ってないし血圧も高くはない。
ただ若い頃から煙草はやめられずに吸い続けているけど。
...しかし、まだ死にたくはないから、と煙草はやめる事にした。
医者に言われた通りに薬を飲み続け、生活を改善し、ちょっと強めの運動は控えるようにした。
例えばジョギングはやめ、ウォーキングに。
息が切れるような運動はなるべく控え、心臓に負担をかけないような運動を心がける。

すると、いつも二月に一度参加しているトレッキングに参加すると、初めて途中で皆についていけなくなった。
水泳もタイムが落ちて、いつものライバルに勝てなくなった。

無理をしないでこのまま生きていくにしても、スポーツが皆自分から遠くなっていく事に愕然とした。
「燃えるような思いでスポーツがしたい」...そうして見渡すと、Fさんに残ったスポーツはゴルフだけだった。

これがまた、Fさんにはつらい。
ずるずると「スポーツもやれないジジイ」に落ちていくのは嫌だけど、Fさんはさっぱりゴルフが上達しない。
運動能力に自信があって、今までどのスポーツも自分で考えて上手くなってきたFさんだが、ゴルフだけはそうはいかない。
考えれば考えるだけ、工夫すれば工夫するだけ、結果が悪くなる。
「燃え上がる」より「落胆を重ねる」...それがFさんにとってのゴルフだった。

「ずるずると落ちていく」感覚を感じるたびに、Fさんは自信も生き甲斐もなくしていく気がする。
この感覚が止まるのは、スポーツで結果を出した時の充実感だけなんだけど。
それなのに、もう自分にスポーツはこの苦手なゴルフしか残ってないなんて...

...Fさんは、今日もまたずるずると...