ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

刀折れ、矢尽きて...

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Rさんは、子供の頃から運動には自信があった。
どんなスポーツをしても一流になれる、と自分の運動能力を全面的に信じていた。

学生時代は、野球に始まり、バレーボール、バスケットボール、テニスなどの球技に、器械体操や短距離走なども、ちょっと本気でやれば県大会や地方大会では優勝出来たし、それなりの記録も残して来た。

しかし、学校を卒業して会社員としての生活が始まると、そういった「遊び」をする時間は無くなり、また仕事が面白いためもあって自慢の運動能力を発揮する事は殆どなかった。
それが30代も終わりになって、急に寂しくなった。
...自分は、何かスポーツを一つ決めて努力していたら、そのスポーツ史に残るような選手になれたかもしれない...しかし、もう30代も終わりで、もう「遅すぎる」。

そんな時に、「ゴルフ」の存在を知った。
40代で活躍して優勝争いをする選手もいるし、50になればシニアツアーまである。
個人スポーツだし、自分さえ強くなれば、何処までも道は開けている...「これなら、今から始めてもトップに行ける!」

始めてみると、動かないボールを打つ割には上達するのは難しく、また競技に出るまでは結構やる事が多いしお金もかかる。
それでも、とりあえず競技のために入会した大衆コースでは、いきなりハンデ10をとった。
はじめからボールはよく飛んだし、パットやアプローチの勘も良かった。
始めて2年も経たずにシングルになり、40代も半ばになった今ではハンデは6になった。
本当はもっと実力があると思っているが、仕事の都合で月例に出られない事も多く、最近はハンデは変わらない。

しかしそんなハンデより、Rさんの目標は「公式の競技」で、自分の運動の応力をフルに発揮して予選を通り、「全日本」を舞台とした大会で活躍することだった。
自分では、コースの月例なんかでは入賞する常連だし、公式競技の予選なんて通って当たり前だと思っていた。

...しかし、公式競技の予選に始めて参加した5年前、スタートホールでティーショットが自分でも信じられない程フックしてOBになった。
その一発で我を失い、結局90以上を叩いて予選落ちした。
その他の参加競技も、その年は全く惜しくもないスコアで全戰予選落ちだった。
自分の運動履歴では経験した事の無い、挫折を感じた一年だった。

さすがにRさんは考えが甘かったのを反省して、次の年はクラブを換え、練習量を増やし、練習ラウンドも完璧にこなして、雪辱を目指した。
...が、再びドライバーが大荒れとなる。
練習ラウンドが何の参考にもならないゴルフとなり、再び惨敗。
その年の最初の競技に失敗すると、やはりその年の他の競技も信じられない程に崩れて全敗となった。

昨年の競技挑戦3年目は、2年続けて失敗したスタートを、ドライバーを使わない事で乗り切るつもりだった。
しかし、スプーンでのティーショットをフックさせて、また林にぶち込む。
あとは絵に描いたように一年前、二年前と同じように崩れてしまう。
悩んだ。
自分の自慢の運動能力を信じられなくなった。
練習ラウンドでは予選カット以上の良いスコアを出せるのに、本番になると信じられないようなミスが出る。
前年の失敗を繰り返さないように、練習も十分したし、コースの下調べもしっかりやったし、体調管理だってしっかりやっているし、体力トレーニングやストレッチだって休まずやっているのに...

昨年4年目に同じように失敗してしまったあと、少しゴルフから離れてから、改めて今年5回目の挑戦準備をある覚悟とともに始めた。

自分はどんなスポーツでも、5年本気でやったら一流になれると信じていた。
ゴルフにはちょっと手こずっているけれど、5年目の今年は自分なら120パーセント予選を通って、かなりいい所まで行くはずだ。
それだけの努力もしたし、腕が上がっている実感もある。
だから、もし今年ダメならゴルフをやめる...もう自分にはゴルフの才能は無かったと諦める。

そう決めて臨んだ、今年の予選。

自己嫌悪と敗北感と絶望と...スコアも悪かったけれど、心が気持ちがボロボロになって18ホールを終えた。
とうとう5年間、一回も予選を通らなかった。
自分には絶対にゴルフの才能が無い、というのが判った。

もうゴルフなんてやめて、違う遊びを見つけよう。
競技のあの緊張感なんて、自分は本当は好きじゃないんだ。
自分は本当は運動神経なんか無かったんだから、釣りでもして時間を過ごしていれば良かったんだ。
ゴルフをしている自分なんて、大嫌いだ。


ゴルフは、あれから半年やってない。
まだRさんは、次の「遊び」を見つけていない。

...捨ててしまおうと思ったゴルフ道具は、まだ物置の中に、全部ある。