ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ポチッとする人

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Hさんは、今年まだ2ラウンドしかしていない。
思えば、去年も年間7ラウンドしかしなかったっけ。
ゴルフを初めて20年弱、多い時には年間50ラウンドもしてたのに。

遅く始めたゴルフだったけど、決して他人より上手くなった訳じゃないけれど、ゴルフにかける情熱は誰よりも強いと自負するHさんだったのに。

...Hさん自身は、今が一番ゴルフに燃えているかもしれないと思っている。
身体はまだまだ元気だし、これといって悪い所は無い...気持ちも決して衰える事無くゴルフを愛している...収入も少なくなったとはいえ、それほど少なくはない。
ただ、この2年程ゴルフに行く回数が激減しているだけだ。

ラウンドの回数が減った原因は、ラウンドする金が足りない事。
ゴルフに使う金は以前とそれほど変わっていないし、プレーフィーだって以前と比べれば安くなっているのに、今はラウンドする金が足りない。

始まりは一昨年の夏の終わり。
それまで使っていたドライバーで球が捕まらなくなり飛距離が酷く落ちた、フェウェイウッドはろくに当たらず、アイアンは距離も方向も悪く飛距離も出ない、パターは全く距離が合わず短いパットを引っ掛けたり押し出したり...
それまで数年調子が良かった事もあり、クラブは殆ど変えずにゴルフを楽しんでいたが、なんだか急に全てのクラブが合わなくなった様に感じた。
(その時は、仕事が忙しく寝不足も続いていた)

しかし、クラブを換えるにも最近のクラブは皆高くて、とても簡単に手を出せるようなものではなかった。
そこでそんな事をゴルフ仲間に相談すると、「ネットのオークションなら、少し前のクラブが中古ショップより安く手に入る」と教えてもらった。
そこで、息子にやり方を教えてもらって、ネットオークションでクラブを探してみた。

...最新のものはそれなりに高いけど、3~4年前の人気クラブなら本当に安く手に入る事が判った。
シャフトもいろいろとリシャフトしているものがかえって安いし、探せば状態により値段はピンからキリまで...とくに個人出品のものには掘り出し物が多かった。
最初に1万円強で落したドライバーが大当たりで、以前のドライバーよりも易しい上に飛距離も出た。
次に落した、以前Hさんが欲しかった高級アイアンセットは、3万円弱で落せた...これも大当たり、飛距離も方向性も打感も申し分無かった。
これに味を占めたHさんは、その後パターも、ウェッジも...キャディーバッグまで落してしまった。

本当ならこれでHさんの武器は一新し(勿論数年前のモデルだけど)、楽しさが蘇ったラウンドを重ねるはずだった...
ところがHさんは、高くて手が出なかったかっての憧れのクラブ達が、よりどりみどりで安く手に入る事の方に興奮して夢中になってしまった。
元々ゴルフやクラブの歴史なんかにも興味があったHさんは、もう一度資料を集めてクラブの歴史や名手達の使ったクラブなどを勉強し直した。
そうすると、自分が始めた頃には消えかかっていたパーシモンの名器と呼ばれたクラブや、クラシックの名器と呼ばれるアイアンや、歴史に残るパターの名器などにも興味が湧いて来た。

幸いな事に、バブルの頃に急騰したそういったクラブはバブルが弾けたあと一気に急落し、クラブの素材の変化がそうした過去のクラブの需要を殆どゼロにしていた。
そのために過去の名器と呼ばれるクラブも、ネットオークションではほんの少数の収集家以外に競争相手が無く、Hさんとしてはリーズナブルに次々と手に入れる事が出来た。

そうして集め始めた過去のクラブの数々は、集めれば集める程いろいろな方向に欲が広がって行き、「置き場所が無いのに」という家族の非難をものともせずにHさんは突進して行った。
奥さんにしても、他に金のかかる趣味なんて持たない夫が、自分の小遣いの範囲で嬉しそうに熱中しているのに、それほど強い反対は出来なかった...置き場さえあれば。

それからずっと、Hさんはそういったオークションで殆どの小遣いを使ってしまうので、ラウンドに回す金が足りない。
どうしても断れない古い友人とのラウンドや、会社のコンペなどではラウンドするのだが、「このラウンドにかかる金で、あのクラブとあのパターが手に入るのに...」なんてHさんは思ってしまう。

昨晩も、探していた古いパターが安く出て来たので、つい「ポチッ」としてしまった。
競合相手が出て来なければ、欲しいパターだ...もし相手が競って来たら、この値段までは押してみよう,,,

もし落せたら、今月はラウンドする金ないなあ...あれ、このアイアンセット、あの限定セットか...これはこの値段くらいなら興味あるなあ...ちょっと無理かなあ、人気あるから...でも、この値段くらいまでなら絶対に欲しい...金が足りないなら、あのセットを売りに出してもこっちを買おうか...


今は、スタートホールでティーショットを打つ時のドキドキよりも、探していたクラブを見つけて「ポチッ」とする時のドキドキの方が、Hさんにはずっと大きな刺激になっている。