ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

存在

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Fさんは、「ゴルフが紳士を作る」なんて言葉は全く信じていなかった。
仕事で始めたゴルフに熱中してから10年、6年前にプライベートでちょっと遠いコースのメンバーになり、ハンデをとって毎月の月例を中心にゴルフを続けて来た。

今までに月例の優勝は6度を数え、2位3位は結構沢山獲った。
しかしメジャーの競技、特にクラチャンではでは予選通過の常連にはなったが、優勝にはまだまだ手が届かないレベルだ。
このクラブの月例に出るようになった時、Fさんが最初に感じたのは「強い選手はそれぞれ強烈な個性を持っている人が多い」ということだった。

実際このクラブの上位に来る常連というのは、競技中一言も口をきかず挨拶も満足にしない男や、打つ前に何時も嫌なイメージを聞こえるように呟くような男や、キャディーを自分だけの奴隷のように呼びつけ走らせる男や、何かあると狂気のようにルールを喚き立てて自分に有利なようにジャッジしまくる男や、他人には「遅い!」とか言うくせに自分の打つ順番になると呆れるくらい長い儀式をしないと気が済まない男や、他人のミスを鼻で笑う男なんていう「とても紳士なんて呼べない様な男達」ばかりだった。

「そうか、こいつらに負けない為には甘チャンじゃダメだ。自分も他人を無視して平気で自分の世界のゴルフしなくちゃダメなんだ」
Fさんはそう考えて、余計な愛想を振りまくことをやめて他人から簡単に近づけないような雰囲気を作ることにした....もちろんそれで恥ずかしい思いをしないように懸命に練習し、そのおかげですぐにハンデは13から10、そして3年前に念願のシングルハンデ9になり、今はハンデは6にまでなった。

クラブ内でも実力者の一人として顔を覚えられる存在になったが、周りからは無愛想で怖くて、マイペースで他人に気を使わない男、なんて評判だったと思う。
自分では、「練習は嘘をつかない」「ゴルフは実力があるものが勝つ」「上手くさえなれば他人は一歩下がって恐れてくれる」「ゴルフは上手いヤツが偉い」なんて考えでいたから、むしろそんな評判は嬉しいくらいだった。

しかし6になってから、Fさんは自分のゴルフが壁にぶち当たっているのを感じるようになった。
いいときはいい...しかし、何をやっても上手く行かないときが結構あるのだ。
いいときはティーショットがいい場所に行き、セカンドやサードショットはグリーンを捕らえる...ミスした感覚のショットでさえ、ハザードを避けてグリーンを捕らえる。
そして、そういうときはパットが入る。
チャンスにつけたヤツはもちろん、長いパットを寄せるだけのつもりが入ってしまったり、短いのを打った瞬間ミスしたと感じたのに結果ラインの読み間違いで入ってしまったり...

しかし、不思議なことにどんな風に打ってもパットが入らない日がある....ラインに乗ったのにことごとくカップに蹴られる、入ったと思ったボールが砂粒かなにかにぶつかって曲る、下りなのにカップの縁で止まってしまう...
ショットも同じ....フェアウェイ真ん中に打ったボールが、みんなディボット跡に入ってしまう...グリーンに乗るはずのボールがスプリンクラーに当たって跳ねてとんでもない所に行ってしまう...花道から行くはずのボールがバンカーレーキに当たってバンカーに入る...あげくの果てにはピンを狙ったボールがピンに当たって変な所まで跳ねてしまう...

Fさんは調子が上がって行って、「チャンス!」と思っていた試合でこんなことを何回も経験した。
それが原因で、クラブの強豪としてある程度まで来たFさんは、どうしてもクラチャン連中のレベルまでたどり着けない。
何故彼等にはそんなことが起きなくて自分には起こるのか...考えたFさんは、ある結論に達した。
クラチャングループは、ほぼ全員が自営業者やゴルフ練習場とかゴルフショップの関係者や大学ゴルフの関係者...自分とはラウンド数が倍以上違う。
サラリーマンの自分には、ラウンド数が少ないが故にこういう「ラッキー・アンラッキーの日」が試合の日に当たってしまう。
...Fさんは、いままで自分より下手な連中が「今日はアンラッキーばっかりだったよ」とか「今日はついてねえなあ」とか言う言葉が嫌いだった...「それはお前が下手なだけだよ」と考えていた。
「上手くなればアンラッキーなんて関係ないんだ」、そう思っていた。

しかし、「違う...自分の力ではどうしようもない何かの力はある」と今は考えている。
テレビでメジャーの試合なんかを見ていると、よく選手がショットの後に宙を見上げて何かを呟く...「あれは彼等の神様に感謝していたのか」「彼等程の名手であっても、自分の実力以外の何かに祈っている」...
Fさんは、生まれてずっと無神論者だった。
親は仏教らしかったが、自分が特に何かを神や仏に祈った経験はなかった...もちろん初詣や墓参りやクリスマスの経験はあったが、それを自分が信じていた訳ではなく、ただの生活の風習として参加していただけだった。

Fさんは今でも「神」を信じている訳ではない...ただ、自分の力の及ばない「存在」がゴルフに影響している、と感じているだけ。
そう思うようになってから自分のゴルフが変わったような気がしている...なんだか上手く行く日は、「ありがとう」と何かに言いたい気持ちになってプレーしている。
何もかも上手く行かない日は、「勘弁してくださいよ」「そんなに虐めないで、今日は許して下さいよ」なんて、「何か」に話しかけている自分がいる。


まだ成績やハンデに影響は出ていないが、最近「またご一緒にプレーさせて下さい」と言われることが多くなった気がする。
そんなこと、あまり言われたことってなかったんだけど...

これも「何かの存在」の影響なのか...?