ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

悔いが無いとは言えない

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Yさんは、今年で42歳になる。

「やっていても、もうとっくに引退している年なんだなあ...」
そんな事を考えると、少し慰めになる。

Yさんは、名前も違う14歳の頃、「天才少女現る!」とか「プロよりも飛ばす中学生!」とか言われていくつかの週刊誌に載った事がある。
自分でも可愛い顔をしていると思っていたし、中学でも男子学生に人気だったし、そんな風にマスコミにも載った事で、まるで彗星のごとく表れたスター候補だと騒がれたのは嬉しかった。
当然、将来は「美人女子プロ」になって、有名になって、人気者になって、大金を稼いで...
そんな風になるのが当然の道だと、自分も周りも思っていた。

...ただ、そんな将来の夢は、本当は父親の夢だった。
小学校に入る前から、当時シングルハンデであった父親からゴルフの特訓を受けていた。
それは決して楽しいなんて言えないようなスパルタ教育で、小学校も中学もクラブ活動なんてやる事は出来なかった。
一日も欠かさない連日の素振りや打ち込みや、週2回のラウンドや、ジュニアの試合参加や合宿...
決して嫌だという訳ではなかったけれど、自分の意志で続けて来たという訳でもなかった。

それが、ある日週刊誌が取材に来てブレークした。
きっかけは前に出た試合で、「中学生なのに一緒に回った女子プロより飛んだ」という事が話題になったからだった。
スコア的には優勝争いとか言うレベルでは全然なかったが、「中学生の美少女で飛ばす」という事がマスコミの注目を浴び、「将来の美人プロ候補」となって注目を浴びた。
父親は喜んだ。
中学生だったので当然取材には父が同伴したが、自分より父親が嬉しそうだったのは感じていた。

何回かゴルフ週刊誌に載った頃、いろんな男性が自分に声をかけて来るようになった。
高校生になったあとは、学校とは関係ない芸能関係や音楽関係の、ちょっと自分とは世界が違う見映えのいい若い男性が何人も口説いて来るのは、自分が女王様になったようで気分が良かった。

ゴルフの練習はさぼるようになった。
派手で格好いい男性と付き合う事が楽しかった。

父親と喧嘩した。
でも、付き合っていた男性は「ゴルフの練習なんかしないで付き合え」と言う男ばかりだった。
やがて子供が出来た。
今となってみればお決まりのコースで、ゴルフでマスコミに騒がれなくなって子供が出来ると、男は自分に飽きて逃げて行き、自分は生活に追われて生きて行く事しかなくなった。

娘に裏切られて、失意のまま父親は病でなくなり、自分は生活に追われた。
ゴルフのおかげで注目されて、ゴルフのおかげで波乱の人生に投げ込まれたのに...20歳を過ぎたあと、クラブを握る事は2度と無かった。

...もう少し男を見る目があったなら、もう少し父親の言う事が聞けたなら、きっと自分はゴルフと楽しく付き合って行けたのに。
ゴルフで注目された自分は、ゴルフを続ける事だけで輝き続ける事が出来るのに、「ゴルフの練習なんかさぼれ」という男の軽薄さが判らなかった自分の浅はかさ。
父親の期待が父親自身の欲に見えて、嫌いに嫌った自分の浅はかさ...
とても、悔いが無いなんて言えやしない。

...しばらくして優しく平凡な男と、子連れ同士で再婚し、今は生活は落ち着いている。
今の夫は、自分にそんな過去があったなんて知らない。
自分がゴルフをしていたなんて、全然知らない。

多分、これからも自分がクラブを手にする事は二度と無い。
...最近ゴルフを始めた夫の悪戦苦闘を、ゴルフを知らないふりして...ただ笑って見てるだけ。