ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

和解

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東京に出て来て15年になる。
大学入学とともに上京して、うまく公務員になれてそのまま東京に住み続けている。
面白みの無い地味な仕事だけれど生活は安定して、安いワンルームマンションで贅沢ではないけれど不自由も無く暮らしている。
自分のペースで暮らして行けるので結婚なんても話も無く、と言うより面倒な事が嫌いなので多分結婚なんてしないだろう。
特に相手もいないし。

最近は遠い実家に帰るのは年に一回、年末年始の一週間くらいだ。
本当はもっと帰れると思えば帰れるのだが、どうも実家にいると居心地が悪くて足が遠のく。
原因と言えば、父親...別に悪い男じゃないし、乱暴でもないし、それほど嫌いじゃないけど...軽くて面倒くさい男なのだ。

常識家で腰が低くて世の中の流れに流されまいと必死になって、周りを気にし過ぎてしょっちゅう自分の姿を見失う男...酒に酔うと当たり前の事をクドクドと説教し、酒が覚めるとそれを謝る男。
高校時代にそんな風に感じてから、何となく父親を遠ざけて来た...かわりに妹がうまく父親とやっていたから気が楽だった。
まあ、父親はかえって私に色々と気を使って近づこうとしてはいたみたいだったけど。

今年家に帰った時に、久しぶりに父親が酒に酔って話しかけて来た。
「おまえなあ、なんでゴルフやらなかったんだ?」
「え?」
「お前が小さい頃、俺の入っていたコースで一週間の夏のジュニアスクールに行った事あっただろ?」
「ああ、夏休みに嫌々参加したヤツね」
「でも、あのときお前嬉しそうだったじゃないか」
「2日で何でも打てるようになって、最終日の親子コンペでぶっちぎりで優勝したじゃないか」
「ああ...うまく打てるようになって、ボールが遠くまで飛んで行くのは嬉しかったっけ。」
「それにパットだって天才的にうまくて、プロに『本気でやる気は無い?』って言われたじゃないか」
「あのまま続ければかなりいいところに行くから、高校や大学でゴルフをやってみるといいって言われただろう?」
「なんで、やらなかったんだ?]

覚えている。
確かにゴルフは面白くて熱中しそうだったんだけど...合宿から帰った夜、家で父親と母親が相談しているのを聞いてしまったんだっけ。
ちゃんと娘にゴルフをやらせる為には、やっとローンで手に入れたコースの会員権を売らないと無理だろうなあ、なんて話してた。
父親は見栄っ張りだから、朝になって「おい、ゴルフやりたいならやらしてやるから...本気でやってみないか?」だって。
「大丈夫,子供にやりたい事やらしてやるのが親のつとめだ」なんてカッコいい事言っちゃって。
それがやだって言うんだ...「別に。あたしゴルフなんてやりたくないから」って言ってしまった。

それをあらためて父親が聞いて来た...それでつい「あの頃家にお金なんて無かったじゃない,判ってたわよ」と言ってしまった。
父親は「やっぱり...」と言って,珍しくあっさりと行ってしまった。

そしたら、これだ。
東京に帰って何日もたたないうちに,宅急便が届いた。
新品の最新のゴルフ用具一式!
ポケットの中に手紙が入っていた。
2通...1通目には父親から「ごめんな」だけ。
2通目には母親から「お父さん,あなたが帰ってから『子供だった娘に気を使わせて俺だけゴルフを楽しんでいたなんて、最低だ』って泣いてたわよ」って。

馬鹿だな。
また娘に気を使っている。
だから嫌なんだ。
あんたの為に泣くなんて。