ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

祈り...

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あれから何年経ったんだろうか...

新聞に載る事件だった。

Nさんの友人だった、Sさんが帰ってくる。
SさんはNさんの数十年来の友人であり、ゴルフのライバルでもあった。
腕はほぼ互角で、飛距離はSさん、アプローチやパットはNさんが得意と認め合っていた。
永久スクラッチの約束をして、お昼とラウンド後のスイーツを賭けてゴルフを楽しんで来た。

Sさんは夫との二人暮らしで、夫婦二人でのゴルフにも度々出かける仲の良さは、Nさんもよく知っていた。
そのSさんの夫が体調を崩してから、事態が変わって行った。
風邪だと思われた夫の様子が、その後急におかしくなった。
急な物忘れと、時間感覚の異常、記憶の混濁、会話が成立しなくなる...
若年性アルツハイマーと診断されたと、Sさんから聞いた。

それからはSさんが夫の代わりに昼も夜も働いて、夫の面倒を見ていた。
ゴルフは介護のヘルパーさんに代わってもらえる時...年に数回だけになった。
勿論、その時はNさんと一緒のラウンドで。
そのラウンドもだんだん間隔が空くようになり、Sさんが疲れ切って行く様子が気になって...最後のラウンドの時には、ショットの待ち時間や昼食の時間に、何かを考え込んでボーっとしているSさんの姿が気になった。

...色々な事情や情状が考慮されて、普通より軽い期間となったと言う。
署名運動や、面会等々...Nさんは、一生懸命彼女のために動いたけれど、Sさんにとってどれだけの助けになったかは判らない。

長い時間が過ぎて、Nさんはその間回数が減ったゴルフを続けていたけれど、Sさんとラウンドしていた時のような楽しいラウンドが出来る事はなかった。
そして、もうすぐSさんは帰ってくる。
...でも、彼女が再びゴルフを再開するようになるとは思えない。
どんな気持ちでボールを打ち、どんな気持ちで笑う事が出来るのか...
前に二人で回っていた日々のように、ゴルフを楽しめる訳がない...
それは十分想像出来て、理解出来るんだけど...NさんはSさんとゴルフがまた出来る日を待つつもりでいる。
許すとか許されるとか、考えても答えの出ない事ばかり。

街にジングルベルが流れるこの季節に、何かが許されて、奇跡が一つ起きてはくれないか。
Nさんは、そんな事を思って部屋の片隅のキャディーバッグに手を合わせる。