ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ファミリーゴルフ

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本当だったら、もう夢は実現しているはずの年になったのに...
最近、Nさんはコースに出る度にそう思う。

結婚してから3年程経って、まず夫が仕事の関係で始めたゴルフ。
日曜度に仕事の一部だと言って、嬉しそうにゴルフに出かける夫。
ちょうど子育てで忙しい時期に、ほとんど休日は家にいなかった夫に腹を立てて夫婦喧嘩が耐えなかった。
しかし子供が小学校に行くようになってから、夫の勧めもあって(きっと夫は罪滅ぼしと自分がゴルフにまた行く為の言い訳が必要だったんだろう)近所のゴルフ練習場に通って自分でもゴルフを始めた。

そこで長い付き合いになる友人と出会い、また実際やってみたゴルフが面白かった為もあってすっかりゴルフに夢中になってしまった。
ゴルフ教室の仲間で作ったサークルでいろいろとラウンドを重ね、三ヶ月に一回のコンペにも参加し、意外に速く100前後で廻れるようになった。
子供が中学生になる頃に、ちょっと遠いが安かったコースに夫と二人で入り、月に一度は夫婦でラウンドするようにもなった。
そして娘と息子の子供二人にも、中学の時に自分達の所属コースの「夏休みジュニアゴルフスクール」というのに参加させてゴルフを体験させた。
これは2回程体験させたが、息子より娘の方が明らかにセンスがあったためにこれ以上の参加を息子が嫌がった事と、娘もそれほど執着が無かったので、高校生になると二人ともゴルフからは離れて行った。

サークルの仲間とのゴルフや、Nさんと夫とのゴルフはその後も続き、月2回のゴルフが普通で多い時には月4回もラウウンドした。
少し時間が経ってくると、サークル仲間の話題に「家族でゴルフ」という話が出る事が多くなった。
「娘の方が飛ぶ」とか、「普段口をきかない夫と息子なのに、ゴルフで一緒にラウンドすると凄くよく話をする」とか...そして、家族でゴルフをするのは本当に楽しい、とか。

Nさんもラウンド中に「そのうち家族でこんな風にラウンド出来るといいなあ」なんて考える事が多くなった。
「中学生の時にゴルフを経験させたから、本気で始めたらすぐに慣れて上達も早いだろうなあ」そんな風にも思っていた。
二人が大学生の時に「夏休みに家族でラウンドしない?」と聞いたら、「今シュウカツ中でそんなヒマ無い」「夏休み中はバイトや仲間との約束があって、そんな時間無い」とあっさり断られた。

それでもNさんは、二人が社会に出て落ち着けば必要もあってきっとゴルフを始めるだろうし、家族4人でラウンド出来る日が来るだろうと思っていた。

そして、子供達が社会人になって少し経った頃...
就職に苦労した息子も会社員生活に慣れただろうし、まだ契約社員の娘も気分転換にゴルフするのもいいだろうから...そう考えて、「一緒にゴルフしてみない?」と二人の子供を誘ってみた。

「あのね、僕は今寝る間もない程働いて疲れて...ゴルフをやる時間も練習する時間も全くありません!」「それに、オヤジ達の時代と違ってゴルフで接待なんて全く無いし、上司もゴルフやる人いないし、かえってゴルフなんかやってるのが判ったら虐められるよ」
「私みたいな契約社員がゴルフなんて、無理無理!」「大体ゴルフって、クラブだのボールだの道具が多すぎるしルールとかマナーとかうるさいし、若い普通の人が始められる遊びじゃないわよ」

家族で一緒にゴルフをする....空気のきれいな早朝のスタートホールを家族で独占して歩き始める...プレーの合間の待ち時間に、一寸した相談事や噂話に花を咲かせ、芝の上を渡る気持ちの良い風を家族で感じる...夕暮れの最終ホール18番のフェアウェーを家族で歩きながら、その日のプレーを褒めあったり反省したりする....Nさんはそんな風景を夢見ていた。

やっぱり無理なのかなあ...
小さい頃体験させた息子達でさえ、ゴルフを趣味にするのは無理と言っているんだから、若い人達がゴルフをしなくなるのは当たり前なんだなあ...
自分達の世代には、どこかゴルフを毛嫌いしながらも「ゴルフをする生活への憧れ」があったような気がする。
だから、ゴルフを初めて体験出来た時から、その「ゴルフというもの」の良さばかりを見つけて来たんだと思う。
でもそんな幻想をとってしまうと、「車を持てないのが普通」と言う今の若者には、ゴルフは全く生きている現実の外にあるウソっぽい遊びでしかないんだろう。

家族でゴルフは無理だったなあ...
Nさんにとってゴルフは、「身体が続く限り楽しんだらそれで終わり」の自分だけの趣味で、家族には何も残して伝えて行けない滅び行くゲームってこと、だった。


,,,日本のゴルフは、やっぱり自分達の世代が死んだら滅びて行くのかも。