ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ティータイム

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「もし時間あったらお茶でも飲まない?」
Sさんの携帯にKさんからメールが入った。
「洗濯物も干したし、特に急な用事もないから大丈夫よ。」
と返事を出す。
「じゃ30分後にあの喫茶店で。」

以前はファミレスで食事がてら何時間もお喋りしたものだったが、最近は近所に出来た喫茶店が気に入っていて、そこでコーヒーとケーキを食べながら話す事が多くなった。
茶店としてはコーヒーとケーキで何時間も粘られるのは迷惑かもしれないけど、ファミレスのザワザワとした雰囲気よりこっちの方が落ち着くんだからしょうがない。

「最近行った?」
「もう半年も行ってない、Sさんは?」
「去年行ったきり,一年以上行ってない。」
「Nさんは月2回は行っているみたいよ。」
KさんとSさんとNさんは、随分古いゴルフ仲間。
もう20年以上の付き合いだ...それも同じコースのメンバーとして。

7~8年前までは月に一回は3人でコースに行っていた。
会員権が安くなったあとで買った大衆コースだが、桜並木が美しいのが評判で3人の住む町から電車で行けるコースだった。
そんな桜のシーズンに、バッグは宅急便で送って、3人でお喋りしながら電車でコースに向かうのは楽しかった。
ラッシュの方向とは逆方向だから、いつも座って行けたし帰りは居眠りしているうちに家に着けた。
腕も3人とも同じくらいで、Kさんは持っていなかったけどSさんとNさんはハンデ28を持っていた。
スコアは3人とも対して変わらなかったが、ホームコースでの同年輩の女3人のラウンドは笑いっ放しで本当に楽しかった。

変化が起きたのは、7~8年前。
まずKさんの夫の仕事が不調になった。
自営業の仕事の受注量が減り、Kさんがパートに出なければ厳しい事態となり、ゴルフに行く回数が極端に減った。
そしてNさんの夫が入院して、ゴルフに行く余裕が無くなった。
そしてSさんも、夫が早期退職してからゴルフに行く雰囲気ではなくなった。

それでも、3人は4月のはじめだけ...桜の木が多いコースが一番華やかになる頃、なんとか無理しても3人でゴルフに行くようにしていた。
...それが年一回のゴルフ、という事もあった。

やがて、Nさんの夫が亡くなった。
Kさんは介護の仕事の資格を取り、本格的に働き出した。
Sさんも、年金をもらえる年までは働く事にして、パートの仕事をやるようになった。
ゴルフをやる時間的な余裕も金銭的な余裕も無い時間が過ぎて行った。
...当然、3人はホームコースにも行かなくなった。

まず最初に変化したのはNさんだった。
以前よりずっと強い情熱を持ってゴルフを再開した。
その頃SさんもKさんもラウンドを誘われたが、二人ともその時間が取れなかった。
そこでNさんはコースに一人で行ってラウンドするようになった。
ほぼ毎週末にラウンドしているとは、噂で聞こえて来た。
腕も上がりハンデも減っていて、いいゴルフをするようになっているらしいとも。

SさんとKさんは、コーヒーを飲んで世間話をする。
でも、噂話の種はすぐに尽きて顔を見合わせる。
そして、「Nさんが...」

「あたし達も、またゴルフをしたいわね。」
「時々夢に見るのよ、グリーンや池越えの風景を。」
「3人でプレーするのは楽しかったわね。」
「Nさんは、もう私たちと比べ物にならないくらい上手くなったって..」
「Nさん、上手くなってもまだ私達とラウンドしてくれるかしら」

最近はこんな女のティータイム、いつも同じ話にたどり着く。
「また、桜の季節にあのコースを3人で廻りたいよねえ....」

でも
「このコーヒー、美味しいわね。」
「今日のケーキは、イマイチね。」