ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

「ゆうかり」と「竹葉」

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ずいぶん長い時間日本酒を飲んで来たけれど、自分の中で一番旨いと感じる日本酒は石川県能登の「竹葉」という酒だ。
まだ若かった20代の頃に、酒好きの年上の編集者に教えてもらって以来そう思っている。

一時期は酒蔵からケースで取り寄せて飲んでいた。
始めの頃はその教えてもらった「純米吟醸」の酒は美味しかった。
それほど有名でないメーカーのためか値段も高くはなく、海のもの...それも特に青魚の刺身との組み合わせは絶品だった。
ところがしばらく経って、毎年頼んでいた「純米吟醸」が美味しく感じなくなった。
その酒造メーカーのカタログが1枚のペラペラのものから、立派な何ページもあるカタログになり、酒の種類が多くなって来て、値段が同じだった「純米吟醸」の酒は明らかに違う味の酒になってしまっていた。
あまりの味の違いにがっかりして、メーカーからの取り寄せはやめてしまった。
多分、もっとずっと高い種類の酒に同じ味の酒はあっただろうとは思ったけれど。

それから10年以上竹葉を飲む事は無かった...都内で竹葉を飲ませてくれる店は見つからなかったし..
ところがある時、御徒町を歩いていて「竹葉あります」という張り紙を偶然見かけた。
小さなカウンターだけの店だったけれど、落ち着いた雰囲気の店...それが「ゆうかり」だった。
一見相当年上に見えたおやじが(実は年下だった)、のんびりと穏やかな表情でやっていて、うまい青魚の刺身やうまい卵焼きや天婦羅があった。
...本当に久し振りに飲んだ「竹葉」は、あの昔のうまい味の竹葉で、青魚の刺身との素晴らしい組み合わせを再び楽しむ事が出来た。
何度か通ううちに、おやじさんと週に数日来る手伝いの奇麗な女性と組み合わせだと、不思議にのんびりとして落ち着いてくるのを感じるようになる。
聞いてみれば京都出身の女性で、東男のおやじさんと京女との組み合わせが絶妙な雰囲気を醸し出していたのかもしれない。

時には2杯ほどと刺身で軽く...時には開店から閉店まで五合以上を飲んだり...多くは一人で、時には二人で、時にはそれ以上で...都内に出た時には必ず寄る店になった。

その店が、今月17日で閉店となる。
やむを得ない事情だけれど、また「居心地の良い場所」がなくなって行く。
...新橋の小さな小さなビアホール、御徒町の地下の唎酒師の店、有楽町裏の焼き鳥屋、やはり銀座の地下のおでん屋...もう、何件の「行きつけの店」を失ったんだろう。
そしてまた、ここ「ゆうかり」をなくして、俺は何処へ行けばいいんだろう...
...こんな風に竹葉を飲める店は、もうないんだろうなあ。