8月の、夏の終わりの夕方に、一人ぶらりと神谷バーに行った。
もう行きつけの居心地の良い居酒屋が全て消えて無くなったこの身には、今更見知らぬ居酒屋の親父に話し合わせてお愛想いいながら飲むのは面倒くさくてしょうがない。
ならば昭和の時代より古くからの、変わらぬざわめきと喧騒の孤独の中の一人呑みができる神谷バーが一番気が楽。
ザワザワとして落ち着きが無くて、会話は酷く聞こえ難いが、広い店の片隅の席には一人飲みを「放っといてくれる」安らぎがある。
いつものつまみといつもの生ビールと電気ブラン。
隅っこで、本を読みながら時折客の姿を描きながら。
斜め前に人生の花の時期をずっと続けるオールドレディ二人、粋にドレスアップして昔の姿を想像させる。
曲がった背中も縮んだ背丈も、みんな生きた時代と時の流れの贈り物。
飲みかつ喰らうその上に、同じ世代の語り合う相手が居るならば、何の不満があるものか。
秋の気配がそろそろ匂って、酒が美味い季節になって...俺も暑さから逃げて隠れていた洞窟から這いずり出て、これからは一人酒場呑みを始めよう。
なんつったって先に逝っちまったあいつらは、まず酒が飲めなくなっちまって、それから長く寂しい時間を生きた。
だから...生き残った俺にとっては、酒飲めるうちが花なのさ。