ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

タヌキの話

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もう今年も半年を過ぎた...のか。

今年のゴルフのラウンドは5回、大嵐の時の1回以外は全てヒッコリーで遊んでいる。
天気が良くなればまたヒッコリーで遊びたいが、雨がやむと今度は「クソ暑い」夏になっちまうんだよね。

仕事はほぼ毎日ゴルフのイラストを描いているが、昨日から仕事をしながら思い出しているのが「タヌキ」のこと。

30代半ばでゴルフを始めて、間も無く競技ゴルフがやりたくて入会したのが遠い(家から100キロ!)T県のHカントリークラブ。
競技が盛んということ、コースの評判が良いということ、当時一緒に仕事をやっていた編集者もメンバーで、そこの所属プロとも仕事を通じて知り合いだったし、と色々条件が揃っていたので、そこを「ホームコース」として本格的に競技ゴルフを始めることになった。

しかし、このコースを「ホームコース」としてよく遊んだのには、もうひとつ誰にも言っていない理由があった。
実は、スタート前の朝の練習グリーンにいつも顔を出す「タヌキ」が気に入ったのだ。
競技前の緊張した時間、一番苦手のパットの練習をしている時に排水路の狭い溝をこのタヌキ(家族で3~4匹?居たと思う)がやって来るのだ。
多分、メンバーかコースの人が餌を与えていたんだと思う...人を恐れずに、そっと手を差し出す様子は実に可愛いくて、スタート前の緊張がほどけていくのをいつも感じてた。

そのせいか、このコースのハンデは9から始まってあっと言う間に6まで行った。
ただ、こうした月例競技は日曜日開催、仕事はほとんどが月曜締め切りなので、土曜日遅くまで仕事をして仕上げてから参加するため、毎回殆ど寝る時間もなくコースに出かけていた。
(当時はまだパソコンで仕事を始める前でネットも無く、紙に描いたイラストに色をつけたりスクリーントーンを貼ったりで非常に時間がかかったし、打ち合わせも締め切りも都内に出て編集者と直接会うのが普通だった)

その寝不足のために、どうしてもイージーミスが出てアウトイン両方30台を揃えることが難しく、ハンデキャップは自分でも6が限界と感じていた。
そうしたうまくいかないゴルフの時間に、このタヌキたちの姿に会えることは救いだった。

プロに聞くと、彼らはコース内の池のそばに巣を作って住んでいるらしく(自分はどの池かは知らなかった)、コース内のあちこちに彼らが歩く「けものみち」のようなものが見かけられ、このコースで彼らがずっと生きて来たことが感じられて微笑ましく、自分の気持ちを明るくさせてくれていた。

が、そうした月例でのタヌキとの出会いが、ある時を境にパッタリと無くなる。
それまでもスタート時間によっては、彼らと顔を合わせないことはあったので、最初は「また来月か」なんてそれほど気にせずに家に帰った。
しかし、それが3回連続で続くとさすがに心配になって、プロに聞いた。
「あのいつも顔を出すタヌキ、最近見かけないんだけど..」
「ああ、あのタヌキたち...数ヶ月前の台風の物凄い大雨の時に、池が氾濫しまして」
「翌日、池にあいつら浮いていました...」

「あの雨は地元の老人も生まれて初めてだって言ってたくらい酷かったから...」


なんだか自分の目の前の風景から、色が消えたような気がした。
(だから彼らの通っていたケモノ道にも、草が茂っていたんだ)
...俺のゴルフの唯一の「観客」がいなくなってしまったように感じた。

ああいう「タヌキ」がいなくなってしまうという事は、ずっと長い間続いていたこのコースのタヌキの居た環境が永久に消えてしまうという事...それを感じた時に、このコースの風景が俺には酷く寂しい虚ろなものに見えた。

もともと地元の人間が大きな顔をしすぎているコースだったし、競技ゴルフというものの限界を感じていた時でもあり、俺は間も無くこのコースを退会した。

その後同じT県の他のコースをホームとして遊ぶ様になったが、俺の競技熱は以前のように燃え上がることは無かった。



雨が降っている「梅雨」のこの季節、「ああ、あいつと酒が飲みたいなあ...」なんて頭に浮かぶ相手がみんな居なくなっちまったから、こんなことを思い出すんだろう。

なあ、愛しのタヌキたち...