ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

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Kさんは、50歳になる。
身長180センチ、体重82キロ、若い頃から運動を続け、体は20代の頃からほとんど劣化していない、と自分では思っている。
特に武道に親しみ、空手、柔道、剣道、いずれも有段者であり、バスケットボールや野球・ラグビーにも親しんだ。
大きな体と、目鼻立ちの大きな顔の造作と、上司に対しても媚びないはっきりとした物言いから、若い頃から「硬派」「武闘派」「怒らせたら怖い人」の評判が立ち、社内では一目置かれ出世も速かった。
今では役職についているが、皆に近い将来の社長候補と噂されて、誰もがKさんには「触らぬ神に祟りなし」とばかり、ある程度の距離を置いて恐れられている存在になっていた。

Kさん自身、自分がチラッと見ただけで亀のように首を縮める社員達に呆れながらも、そんな自分の存在感を楽しんでいた。
実際、色々な武道の経験のためか、何か突発的に急な対応をする必要が生じた場合でも自分はほとんど動揺しなかったし、常に冷静に判断できる自分に自信を持っていた。
そして、そういうところが上のものに認められたので、今まで順調に出世出来たのだとも思っている。

そういう、強面・冷静沈着で、怖いものなしのように見えるKさんの一番の悩みが、どうしても付き合いでやらなくてはいけないゴルフだった。
出世するにつれて、仕事先の重役や社長と「接待ゴルフ」とはまた違う「付き合いゴルフ」をする機会が増えた。
別にゴルフが嫌いだとか、不得意だというのではない。
持ち前の運動神経のせいか、上達するの速かった。
体力には自信があるので、当然人より飛ぶし、小技のセンスも悪くない。
オフィシャルの競技会に出る暇はないので、正式なハンデはとれなかったが白ティーから85くらいでは回れる。

だが、Kさんはゴルフには気をつけなければいけないと用心していた。
...面白すぎるのだ。
他の運動では無かった、始めて経験する面白さにハマってしまったのだ。

ある時、ナイスショットが続いて、バーディーチャンスについた。
難しいラインのパットだったが、会心のパットで見事にねじ込んだ。

...ふと気がつくと、一緒に回っていた人たちが驚いたような顔で、固まったまま自分を見ていた。
なんと、Kさんは阿波踊りのような格好で踊っていたのだ。
パットを入れた瞬間に、思わず嬉しくて裏返った声で奇声を発してしまった上に、ひょいひょいと体が動いてしまった...Kさんにとっては全く無意識な動きだった。
「やっちまった」
Kさんは、口を開けたまま動かなくなった3人に、どう言い訳すればいいのか人生最大の危機を迎えたような気持ちになった...

実はKさんは、ちょっと前からそうなるのを心配していた。
ゴルフってのは真剣に夢中になればなるほど面白くて、予想以上に上手くいったりするとつい今まで自分がした事の無いようなことをしてしまう。
すごいラッキーで助かったり、百に一つの成功率なんて思うギャンブルショットが上手くいってしまった時、思わず裏返った声が出たり、小躍りするなんて事が今までに何度かあったのだ。
この時までは、「あっ、まずい!」と早めに気がついて、何気ないそぶりで誤摩化していたがんだけれど...

ついに、この日みんなにはっきり見られてしまった。
「いや、お恥ずかしい。ちょっとプライベートで良い事があったんで、つい...」なんて、笑って懸命に誤摩化したが...
どう思われただろうか。

みんなのあの表情が語っている通り、あまりにも今までの自分とかけ離れたイメージだったはずだ。
そりゃあ驚くだろう。
自分だって、ゴルフの時に限って、自分が女のような悲鳴を上げたり、阿波踊りや猿踊りをするなんて事知らなかったんだから。
こんな姿を会社の部下達にも見られたら、自分の評判も信頼もぶち壊しのガタ落ちだろう。
重しの効いた硬派の男との評判も、おつむの軽い剽軽男の評判に取って代わるかもしれない。

まいった...
ゴルフやると、こんなに自分が軽くなるなんて。
ゴルフはやめた方が良いんだろうか...

Kさん、ずっと悩んでいる。