ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

神様、もう一度...

イメージ 1

今度は、どんなゴルフになるんだろう...
Tさんは、来週に迫ったコンペの事がずっと頭を離れない。

ゴルフを始めて、もう十年近くなる。
今のサークルに入ってからはもう5年、年に4回のコンペが楽しみでもあり、プレッシャーでもある。
週に一回練習場で球を打つ。
ラウンドは平均して月に2回...夏と冬は月一回も回らないので、4・5・6月と9・10・11月にまとめて回るようになる。
行くのは平日で、昼食付きで1万円以下のコース、車は乗り合いで行く。
ほとんどの人がパートやバイトで自分のゴルフ代を貯めて参加しているので、変な見栄を張らなくても良い気楽な仲間達だ。

Tさんの仲間内での評判は、20人近くのメンバーのうちの「ヘタの3分の一」に入っている。
仲間内の「上手い」と言う人は5人、「アベレージ」と言う人が12~3人、それ以下が「ヘタ」だ。

Tさんのゴルフというのは、ティーショットはそれほど曲がらないが飛ばない。
アイアンは、どの番手で打っても同じような飛距離で、まずグリーンに2打で乗る事はなく、3打目4打目でやっとグリーンに届く。
グリーンに近づいてからが大変で、グリーン脇から4打・5打は普通に叩く。
パットはまず2回では入らない...そもそもグリーンの傾斜がまったく読めないので、自分のパットがどこに行くのか判らない。
ましてバンカーに入ったら、2打で出たら拍手されるくらい。
池やOBがあれば、必ずそっちの方にボールが飛んで行く(池は絶対に1回では超えない)...どうしても、ラウンド度にロストボールを10個以上買って行く事になる。

真面目に練習してるしゴルフが好きなんだけど、ちっとも上手くならない。
そんなTさんが、一度だけこのサークルのコンペで優勝した事がある。
あまりに上達しなくて、さすがにゴルフの才能がないからやめようかと思い出した2年前。
それまでずっと120が切れなくて、最下位争いの常連だった時のコンペだった。

1ホール目で「あれ?」と思った。
いつものように1打目は当たり損ねのふらふらと飛んだ球だった。
短いホールだけど距離が残ったので、5Wを使った。
いつもならこれで当たり損ねのボールが出て、グリーンの近くまでは行く...期待もしないで打ったショットはトップしてどこまでも転がって行き..グリーンに乗った。
みんなも驚いたがTさんが一番驚いた。
ファーストパットは距離があったので、3パットで良いと思って打ったら...スネークラインを思っても見なかった方向に転がって、予想もしない方向から30センチについてOKパーになった。
2番ではやっぱり池に入れたけど、前進ティーから打ったボールは強すぎると思ったのに、10センチについてボギーですんだ。
不思議な気持ちだった....バンカーで3回も叩いたのに、やっと出た6打目のロングパットが入ってダボ。
ダフリ・ダフリの後の4打目のアプローチが、トップしたのにピンに当たって30センチについてボギー。
OBに行ったと思ったボールが木に当たってフェアウェイに返ってくる。
あげくの果てに、池に入ったと思ったボールまで池の回りの岩に当たって、グリーンオンする。

自分であっけにとられるような出来事が続いた。
ハーフを終わると、夢だった50台のスコアを通り越して47!
ハーフベスト更新で夢うつつの昼食だったけれど、Tさんも午後のハーフまではそんな事が続かないと思っていた。

午後のハーフ、Tさんは午前中良い事ばかり起こり過ぎたから、午後はいつも通りのドタバタゴルフになると確信して、かえって気楽にスタート出来た。
しかし、午後のハーフは気楽になったためか普通にショットが良くなり...おまけにラッキーまで午前中に続いておき続けた。
なにしろアプローチが、「失敗した!」と思ったのに寄ってしまう。
遠いから「なんとかワンピンにでも寄れば良い」と思ったパットが入ってしまう。
ティーショットも、セカンドも、サードもミスが続いて、「ああ、これでツキは終わったな」なんて思った4打目がグリーン上のボールに当たってピンに寄ってしまう。
「ゴルフの神様って、いるのかも...」
真面目に練習していたTさんに、ゴルフの神様がきっとご褒美をくれたんだ...素直にそんな気持ちになった。

午後はさらにハーフベスト更新の45!
ハンデ30のTさんは、47・45でトータル92、ネット62のぶっちぎり優勝。
自分を励ますために買っていた馬券と合わせて、賞品も特別賞も独占した優勝となった。
...これで、Tさんのハンデは21となった。

しかし、Tさんのこのベストスコア92を上回るスコアは、その後2年出せていない...どころか、相変わらず120前後のスコアしか出ない。
ハンデ21では優勝どころか、上位にも入れない。
でも、あれ以来さらに練習は真面目に続けているし、ゴルフがもっと好きになった。
そして、Tさんは信じている。
真面目に続けていれば神様は、きっとまた自分にご褒美をくれる。

ゴルフは予期せぬ出来事がよく起きる。
上手い人たちの計算されたゴルフは羨ましいけど、自分たちの驚きに満ちた予想外のハプニング連続のゴルフも、上手い人たちに負けないくらい面白い。

つぎのラウンドこそ、またあのゴルフの神様が自分に手を貸してくれるかもしれない。
...それが楽しみ。