網戸越しに見える庭を訪れる、いろいろな「空を飛ぶもの」に興味津々な柚。
カラスアゲハには、優雅に立ち去られてしまった。
と、今度は小さな小鳥...まだ赤くなっていないゆすら梅を啄みに来たようだ。
素早く枝から枝に飛び移る小鳥の動きに、柚の目が、身体が反応する。
網戸のために向こう側からは柚の動きは見えないようで、小鳥は無警戒に近くの枝に来る。
柚の興奮は、まさに今最高潮。
..ただ、小鳥の動きが小さく速いために、柚ののんびりとした構えと準備動作では、気合いを入れた頃にはそこに小鳥はいない。
何度かそんなことを繰り返したあげく、やっと近くの枝で小鳥が落ち着く。
柚は尻尾を振り、小さく身構え、ヒゲは前に出て真剣な表情で息を止める。
「GO!」とでも、気合いをかけたのかもしれない。
飛びついた頭は網戸に激突し、慌てて両手を網戸にかけて立ち上がる。
当然、その時には小鳥の姿は何処にもなく、懸命に辺りを見回す柚の目には、獲物の行方は判らない。
...それで、哀しそうな顔をするかと思えば、そこは腐っても猫の一族。
「ふん、どうせあんなものはあたしの餌としては小物よ」てな顔になり、慌てた自分の姿を忘れたかのように、優雅に身体を舐めて身を整える。
つんとすました顔でこちらを見る。
...「ああ、今のは見てなかったよ」
とある昼下がりの、お話。
(終)