俺が40歳くらいの時だったか...
よく酒場で聞いたのが「俺は年をとったら意地悪ジジーになって、騒動起こしてやるんだ!」とか「俺は歳とったら脂ぎったエロジジーになって、若い姉ちゃんを追いかけ回してやるんだ!」とか、もう定年間近と思える真面目そうなサラリーマンが何人かで奇声を上げている姿だった。
要するに、真面目に我慢を重ねて生きてきた今までの人生にストレスが溜まっていて、定年とかでそういう枷が取れたら思い切って自分のやりたい様に「世間への顔向け」を取り払った人生を送りたい、という願望だったんだろう。
ほんの少しは共感出来ても、「おいおい、そんなことしたらたちまち信用も評判も失くしちまって(多分、家族も)、一人だけで生きて行かなくちゃなんねーぞ...まあ、「出来ない男供のカラ・ホラ騒ぎ」なんて、周りで聞いているノンベたちはみんなニンマリしていたんだけどね。
...昭和の終わりでもそうなんだから、今頃そんなことしたらたちまち「セクハラ」やら「挙動不審者」やら「変態・変質者疑惑」やら「XX条例違反行為者」なんてものを山ほど重ねて、すぐに通報されて逮捕なんだろうけど。
ただ、自分がそんな歳になっちまって、こんな体調不良になっちまってしみじみ思うのは、たとえスケベゴコロでも見当はずれの承認欲求でも構わないから、そんな気を起こさせるような体から湧き上がるエネルギーが欲しい、と言う事。
少し動く度に「ハア、ハア、ゼイ、ゼイ」と喘いで息を整え、いちいち意を決して歩き出すのはどうしようもなく悔しいもんだ。
ああ、裸の女を追っかけ回すような脂ぎったエロジジーのエネルギーでもいいから、俺に少しそれを分けて欲しい。
そんなエネルギーが俺にあれば、球打ちながら野山を散歩する事はわけない事だろう。
,,,まだ残っている糸巻きボールが、俺に「早く自分を打ってくれ」と語りかける。
ボールとして生まれて数十年、まだ誰にも使ってもらえずに箱の中で待っている新品の糸巻きボール。
多少黄ばんで、もうスピン性能を作り出す糸ゴムもすっかり溶けてしまっているだろうけど、一度は風を切って空を飛びたい・グリーンを転がりたい、と俺に囁きかけてくる。
,,,叶えてやんなきゃな。