ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

愛しき日々よ...

 

かって此処には、美しいキャディーさんが沢山居た。
若くて可愛い見習いキャディーさんも沢山居た。

駐車場の奥には立派な保育所があり、小さな子供のいるキャディーさんも安心して仕事に集中出来た。
当時のラウンドにはキャディーさんがつくのは当然であり、その日のゴルフの出来はキャディーさん次第という部分もあった。
そして、その日どんなキャディーさんと組むかが楽しみでもあった。

 

練習グリーンは顔見知りばかりで、飛ばしのライバルも1打2打のスコアをいつも競う仲間も沢山居た。
月1回の月例で顔を合わせれば、みんな何十年来の旧友のような親しさでゴルフ談義は尽きなかった。

 

都会暮らしのサラリーマンだったTさんは、このコースで四季折々の自然の移ろいを感じていた。
休みになれば遠路100キロを飛ばしてコースに来た...雨が降ろうと雪が降ろうと、暑かろうと寒かろうと...夢中で球を打って走り回った。
いくら練習しても、実力は「やっとシングル」が限界だったが、この遊びを止めるなんて気持ちには全くならなかった。
大げさだが、自分では「このため」に日々を生きていた。

 

 


月日は流れた。
セルフプレーが当たり前になった時代に、もうキャディーさんは一人もいなくなり、駐車場の奥の保育施設は幽霊屋敷のような廃墟となっている。
コースの経営は2度3度と代わり、古いメンバーはほとんどが姿を見せなくなった。
コースは経営が代わる度に陳腐な改造がされ、かっての優雅な雰囲気はすっかり無くなってしまった。

それでも、Tさんはこのコースに通っていた。
流石に片道100キロはしんどくなったが、まだずっと続いている一緒に遊ぶ仲間がいた。
Tさんと同じようにコースの変遷にもめげず、このコースに来ている3人の仲間。
何十年にもなる彼らとの長い付き合いは、Tさんの人生で掛け替えのない大事な物だった。

 

...それが今年、4人の仲間のうちの一番若かったUさんが、突然心筋梗塞で65歳で亡くなった。
直前まで元気で、健康に問題は無いと自他共に認めていた男だったのに。
その数ヶ月後に最年長のKさんが、「もう75歳を過ぎて運転に不安を感じるようになったので」と、免許を返納して、同時にゴルフも引退するとメールしてきた。

...そして先日、残っていたSさんが重い病気で入院した。
「もうゴルフは出来ないだろう」というメールが、Tさんに届いた。

 

一緒に遊んでいた仲間が、「あっ」と言う間にみんないなくなった。

Tさんの中のゴルフの灯火が、日々小さくなって行く。
スコアに心動かされる事はほとんど無い。
若い者と飛ばしっこするつもりも無い。
仲間がいなくなって、自分は何を楽しみに?

 


半年ぶりにTさんはコースに来て、見知らぬ人達とラウンドした。
天気も良く、悪く無いスコアで回って,,,
18番を終わって、キャディバッグを降ろしてコースを振り返った時に、コースに別れを言われたような気がした。

「そうだよな」
Tさんは、「もうここに来る事はないだろう」と納得した。

 


キャディーバッグを車まで持って行く時、ふと、たくさんの元気なキャディーさん達とすれ違った気がした。

その中に、当時みんなが憧れていた綺麗なキャディーさんの笑顔が見えたような気がした。
彼女に何回かついてもらった時には、その場違いの美しさに4人ともボーッとしてゴルフどころじゃなくなって、みんなボロボロ崩れて後で大笑いした事があったっけ...

,,,あの頃は、まだみんな若かった。

 

 

 


思えば、もう40年くらい昔の話か,,,,