ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

目標

イメージ 1

あと10年か。
Fさんは誕生日を過ぎてそう思う。
50歳...定年まであと10年。
真面目だけが取り柄で、何の取り柄も才能も無くひたすら働いて来て30年弱。
運が良い事に、今いる会社は大きくはないが業績は堅調で、リストラもされずに無事に働いて来れた。
肩書きは課長どまり、目立たない女性と結婚し娘一人、まずは普通の家庭を維持して来た。
無趣味であったが、30を過ぎてゴルフを始め、ちっとも上手くならないのにもう20年近く続けている。

そんなFさんが、考えた。
「俺はこのままでいいのか?」
...普通、この年でこんな事に気がつく男は、一攫千金のギャンブルにハマるとか、金目当ての悪い女に引っかかって身ぐるみ剥がれるとか、ありもしない儲け話に手を出して大失敗するものが多いんだけど。
Fさんは違った。
身の程は十分知る程に冷静であった...だから、特に能力を認められなくても意地悪もされずに会社に居続けられたんだけど。
会社は、定年まで今まで以上に真面目に勤める...他人の嫌がる様な嫌な仕事もいとわなければ、ちゃんと会社にいられるだろう。
女にもてる訳ないし、ギャンブルの才能があったらとっくに金持ちになっているし、儲け話があっちからやって来る事なんて絶対に無い。

このままでは良くない...そう考えて、なんとかしたいのは一つだけ。
実はFさん、ゴルフにハマっている。
Fさんのゴルフは飛ばないし、当たらないし、入らないし、ちっとも上達しないけど、ともかく月に一度のゴルフが楽しくてしょうがない。
正直言って、奥さんや娘や食べ物や酒より好きだ。
給料は殆ど奥さんに渡し、少ない小遣いやボーナス時のほんの少しのへそくりとでやりくりするゴルフだから、最新の道具をしょっちゅう買い替えたり出来ないけど、ネットオークションやローンでそれなりに揃えて来た。
実力は、やっと最近100を切れるようになって来たくらいで、会社のハンデは18だ。

でも、「大好きなゴルフで、何かの結果を残したい」
ずっとそう思って来た。
かと言って、シングルにはまずなれないと思う。
なにかの大会にでて優勝するなんて...それこそ無理。
ホールインワンは、偶然の産物だからあるかもしれないけど...

Fさんの夢は、ゴルフでプロが優勝したときの様なガッツポーズがしたい事。
それも、心の底からの喜びで自然にでてくる様なガッツポーズだ。
今までずっと大人しく真面目に生きて来た自分の、自分だけに判る晴れ姿の。

実は目標とする夢はある。
夢というより、妄想のたぐいに近いけど。
それは、人生と時間との勝負でもあるゴルファーの栄光。
エージシュート

Fさんは、ずっと考えていた。
90ではまわる事が出来るようになると思うけど、自分が90才でゴルフが出来るか?
では、85才で85は?
80才で80?
難しいのは判っているけど、Fさんにはガッツポーズで達成したいのはこれしかなかった。

幸い、少ないけれど親の遺産が入って来て、夢は現実に一歩近づいた。
今まで独学で来たFさんは、これからは時々プロにレッスンを受けるつもり。
少しずつ腕を上げて、身体も鍛え、この10年でなんとか80台でまわれるようになりたい。
その力を自分のものとして、その後の10年から懸命に勝負をかける。
いつか成し遂げる事が出来たら、自分のゴルフと人生への勲章とする。
そんなFさんの事は、会社の同僚も家族も誰も知らなくていい。

もう一つの作戦も既に実行に移した。

...Fさんは、じっくり調べて近辺で一番短い総距離のコースに入会した。