ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

復帰願い

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Hさんは、プロテストを5回以上受けた。
それ以上は何回受けたか、思い出したくない。
最初のプロテストは惜しかった...悠々と合格できる順位だったのに、最終日に崩れて2打差で落ちた。
序盤に、なんでもないパーパットを「お先に」をやって外した。
それから、パットがおかしくなった。

2回3回と同じようなパターンで落ちると、それからは決まって終盤で崩れて合格ラインには遠く及ばないような結果が続いた。
5回目のテストを落ちた後は、もう合格する事なんて「絶対無理」なような気になった。
ゴルフをプレーする事自体が苦痛になった。

プロテストを受ける前までは、周囲から期待されていた。
自分でもプロゴルファーになるのは当たり前だと思っていた。
いくつかの試合で優勝したし、飛距離も出たし、小技にも自信があった。

何度目かのテストに予想通り落ちた後、研修生生活をやめて男と一緒に暮らし始めた。
所属していたコースのメンバーで、若くして商売で成功したと言う派手な男だった。
しかし、その生活は2年ももたなかった。

プロテストもゴルフも諦めて、バイト暮らしを続けた後、今の夫と結婚した。
真面目で優しい夫との生活は幸せだったが、子供二人を抱えての日々は全くゴルフとは縁のない暮らしでもあった。
しかし、ゴルフから離れてほぼ十年の時間が過ぎると、何かの瞬間に白いボールの軌跡が頭に浮かぶ事が多くなった。
ぼーっとしている時だったり、うたた寝をしている時だったり、子供世話が一段落した時だったり...
青い空を軽いドロー回転で飛んで行くボール。
緑輝くグリーンのピンデッドに突き刺さるボールだったり。
あれほど苦手だった、複雑な傾斜をカップに向かって転がるボールだった事もあった。

夫は会社の付き合いでゴルフを始めたばかりで、だんだん熱中して来たようだ。
元々球技には自信があるという夫は、平日の年間会員になって競技に出たいなんて言い出した。
「お前も子育てが一段落したら、一緒にゴルフをやろう」と言ってくれている。

そんなことで今の夢は、子供たちが少し手を離れて時間とお金の余裕ができた頃に、夫と一緒にゴルフを楽しむ事。
夫はまだHさんが、元研修生だったなんて知らない。
でも、時間が経てば夫は上手くなるだろうし、一緒に競技に出るのも面白いかもしれない。

...その夢はまだまだ先の話で、本当にできるかどうかなんて判らない。
でも、将来にそんな夢があれば、今をもっと楽しく過ごせそうな気がする。
きっと、その時のゴルフは楽しいだろうなあ、と想像する。
今の生活にはとても自分がゴルフをする余裕なんて無いけれど、その未来に一歩進むためにHさんは行動を始めた。

その第一歩が「アマチュア資格復帰手続き」。
プロテストを受けていたHさんにアマチュア資格は無くなっているので、JGAに「アマチュア資格復帰申請書」を出した。
この復帰願いが受け入れられて、Hさんがアマチュア資格を取り戻すのには少し時間がかかるけど、いまのHさんにはとてもゴルフを始める余裕は無いのだから問題ない。

あと5年後か10年後か、Hさんにゴルフをする余裕ができた時にアマチュア資格があればいい。
そして、夫と一緒にダブルスの競技に出てみたい。
その日までどんなに時間がかかっても、そんな夢があるからこそ生活を頑張れる...と思う。

Hさんは、一歩歩き出さした。
もうこの歩みは止まらない、とHさんは信じている。