ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

カラオケ

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なんでも良かったんだ。
Eさんは、そう思っている。
機が熟すのを待つ、とも言えるかもしれないけど、それまでは自覚していなかった。

近所のスポーツジムの仲間とで開いた、忘年会だった。
十人あまりが集まって居酒屋で乾杯したあと、2次会で7人がカラオケに行った。
カラオケはEさんは得意でもなく、一番親しいWさんに半ば強引に連れられて寄っただけだった。
自分で歌うなんて一年に2~3回もあっただろうか。
このときも聞き役で、カラオケに自信がある人達が次々に歌うのを拍手しながら聞いているだけだった。
酒は生ビールだけだったが、そこそこ酔って半分眠っているような気持ちだった。
当然歌えと言われても「あたし音痴なので...」と固辞して、応援団役で許してもらっていた。
歌われたのは殆どが演歌で、Eさんのあまり知らない歌が多かった...みんな上手いのだけは判ったけど。

まるでBGMのように歌われる歌を聞いているうちに、耳に飛び込んで来たワンフレーズに、急にはっきりとした視覚的なイメージが浮かんだ。
「夕焼け雲に~誘われて~~」
何処で見た夕焼けの風景だったろう?
みんなには悪かったけれど、その後は自分が何処でそんな夕焼けを見たのかを思い出そうとして、誰が何を歌っていたのか全然聞いていなかった。

思い出したのは自分のうちに帰って来て、布団の中に入ったあと。
...車で家に帰る途中に見た景色だ。
秋の終わり、北の方から自宅に帰る途中で、燃え上がるような夕焼けと、オレンジ色の空の下でくっきりと姿を見せていた影富士...
あまりの色彩の美しさに、何も言えず、助手席からぽかんと口を空けてみていた。

もう十年くらい前の事。
夫と一緒に行ったゴルフの帰り道!

思い出した。
それから少し経って、何時までたっても上手くならない自分と、一緒に行くと必ず喧嘩になる夫との関係と、経済的に厳しくなった状況が重なって...ゴルフをやめた事。
始めは少し寂しかったけど、2~3年経つとそれも忘れ、もう十年近くゴルフをやっていない。
そんな事を思い出したら、もう一度猛烈にゴルフを始めたくなった。

そんな気持ちになるのを待っていたのかもしれない。
道具は幸いそのまま捨てずに残っている。
夫は仕事の関係もあって、ずっとゴルフを続けているし...自分も、今ならゴルフをしても以前のようにミスにカリカリして、「他人に何も言われたくない」なんて気持ちにはならないような気がする。

そうだ、多分これからは大丈夫。
あの夕焼けを覚えていたように、きっとこれからは記憶に残したいようなシーンが積み重なって行くはずだ。
スコアじゃなくて...まだよく判らないが、あの夕焼けのようなものが...

自分にとってはこういう風に感じる時が来るまで、これだけ時間が必要だったんだ。
そしてこの前のカラオケで、きっとゴルフの神様が自分にもう一度楽しむきっかけをくれたんだ。
Eさんは、あの時誰が歌ったのか、なんて言う歌だかは知らないけれど、自分にきっかけをくれたカラオケに本当に感謝している。

今度機会があれば、自分も歌を歌おう。
「...でも、ゴルフの歌なんてあったかしら?」