ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

夫の3訓

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Rさんは今年で65歳になるが、毎週末自分で車を運転して70キロ離れたホームコースに一人で出かける。
土曜日の朝か昼前に出かけて、ラウンドしたりハーフだけ回ったりしたあと、馴染みの小さなホテルに泊まる。
以前ロッジがあった時にはそこに泊まったのだが、今はロッジが無くなったのでコースの提携ホテルだ。
日曜日は朝からいつもの知り合いのメンバーと回るか、競技の時にはBクラスで参加して楽しむ。

もうそんな生活を25年以上。
酷暑の日でも厳冬の日でも欠かさず通っているので、知人達がみんな呆れているのは知っている。
...幸せだと思う。
6年前に亡くなった夫が事業を成功させて、生活の心配は全く無い状況にしてくれた。
毎週ゴルフに行くくらいじゃ、経済的には何の影響もない。
問題はむしろ自分の体力だが、毎週ゴルフをプレーして来たためか、片道70キロの運転も1ラウンドや2ラウンドのゴルフは全然平気だ。

本当はもっと近いコースに入ればいいんだろうけど、25年以上所属しているこのコースには仲の良い知り合いも多く、コース側も毎週必ず来る自分にいろいろと気を使ってくれているので、非常に居心地がいいのだ。
近くのコースに入ろうと思えば入れるが、また一から人間関係を築き上げるには、自分にはちょっと時間が足りないと思っている。

腕は良くて80台、叩けば100に届いてしまうのが最近ずっと変わらないが、誰もが自分とラウンドするのを喜んでくれるのが嬉しい。
これは、夫が「ゴルフを始める際に、3つの事だけ守れ」と言ってくれたことを、忘れないで守っているからだと思う。

「1・ボールに触らない。
2・速く打って、速く歩く。
3・言い訳しない。」
「これだけ守っていれば、あとは忘れていい。」と夫は言ってくれた。
そんなことを最初に言われたので、自分は嫌われずに今迄ゴルフを楽しんで来られた。
...幸せだったと思う。

夫と一緒にゴルフをしたのはほんの1年くらいで、あとは夫が買ってくれたこのコースに一人で来るようになった。
子供が出来なかった自分には、ゴルフをする時間は十分にあったし。
夫は仕事が忙しそうだったしほかに女が出来ているようだったけど、自分は毎週このコースに来てゴルフをすることが楽しかったから、あまり気にはならなかった。
自分は、確実にゴルフが上手くなることが幸せだったし、ゴルフ仲間がこのコースで増えて行くのも幸せだった。

夫が亡くなった時には悲しかったが、夫と付き合っていた女性の子供が夫の会社に入っていて、夫のあとを継いで会社経営に携わるということで、混乱も無く事態は落ち着いて過ぎて行った。
ほかの女性との間に出来たという子供が立派な男で、自分の生活に何も心配がないように気を使って(多分夫の要望もあったんだろう)遺産を整理してくれて、生活も毎週末ゴルフに行くことも変わらずに今日迄来ている。
...本当に、自分は幸せだと思う。

なによりも今のコースで居心地がいいのは、夫が最初に言ってくれた「ゴルフの3訓」を自分が守っているからだと思う。
知り合いはもう慣れたようだが、始めて一緒になる人は自分のプレーの速いのに必ず驚く。
どんなときでもノータッチ。
素振りを一回して、ボールをセットしたらすぐに打つ。
打って結果が良ければにっこり笑い、ミスだったらすぐにカートに走って次のショットの準備をする。
それだけでみんなは感心してくれる。
自分がそういうゴルファーになれたのが、幸せだと思う。

70キロを走る運転も自分は好きだ。
都会から田舎への風景の変化は、何回来ても毎回違う感動がある。
行く道では、これからのゴルフを想像し、期待し、夢を見る。
帰り道では、反省し、後悔し、次回のゴルフを考え、人生を考える。

そして、やっぱり、自分は幸せだと確認する。