晩酌は欠かさない。
いつもは軽い偽物ビール。
気分を変える時は、日本酒を冷やで。
そして、週に一回ちょっと気取ってスコッチのウィスキー。
本当に、何を気障な事をやっているんだろう、なんて一人笑いが出るけれど。
...Kさんは、今年75歳になった。
仕事をずっと続けて来て、子供3人を育てた。
仕事がなんとか続いたおかげで、幸いな事に3人とも無事に育って今は3つ下の奥さんと二人暮らし。
ゴルフは50歳で始めた。
本当はずっと憧れていて、やりたくてしょうがなかったけれど、仕事の付き合いで必要になるまで始める事は出来なかった。
テレビでゴルフの試合はよく見ていた。
奇麗な緑の世界で、男達が真剣に勝負している様は面白かった。
はじめは、400メートルも先の小さな穴ぼこに、たった4回で入れてしまうなんて信じられなかったけど。
...始めてからは、ゴルフが生き甲斐になった。
ゴルフの歴史から、技術から、いろいろなエピソードまで...あらゆる自分の自由になる小遣いをゴルフが上手くなるためと、ゴルフに関する知識を得るために使った。
月に2~3回のラウンドで、腕は上がらなかったけど幸せなゴルフ生活を送って来た、と思っている。
ただ、一つだけ残念に思っている事がある。
それは、ゴルフを始めた頃から行きたいと思っていた、海外の有名なコースにとうとう一度も行けなかった事。
セントアンドリュース、カーヌスティー、ミュアフィールド、そしてぺブルビーチ、バルタスロール、オーガスタナショナル....
勿論、普通の人が簡単にできるコースじゃないのは判っているし、日本の有名なコースだって殆どラウンドした事がないんだから、あくまで自分の勝手な夢だったんだけど...
正直、いつかは回れると思っていた。
まだ、時間はあるから、きっとチャンスが来ると思っていた。
しかし、70歳が近づいて来て、叶わない夢だと諦めた。
収入の面でも、年齢の面でも、現実はよく判っていた。
そうして、今は月に2回のゴルフをしながら、一週間に一回「ウィスキーの晩酌の日」を決めて、その日は集めたゴルフ場の写真集を見ながらスコッチウィスキーを飲む。
なんだか沢山集めてしまったゴルフ場の写真集を、のんびり眺めながら夢の世界で名コースのプレーを楽しむのには、スコッチウィスキーが似合うと思っているだけで、特にウィスキーが好きな訳ではない。
でも、その時間は、幸せな時間だ。
セントアンドリュースは、もう何回ラウンドしただろう。
オーガスタナショナルだって、何度もラウンドしてホールを覚えている。
面白いのは、そんな夢のラウンドでも100が切れない事。
うっかり良いスコアなんかがイメージできてしまうと、「そんなはずは無い」とやり直す...すると、「やっぱり」というスコアになって一安心。
ちょっと前までは、オンザロックでハーフに2杯飲んでいたけど、最近はそれだとラウンドし切れなくなったので、水割りにして薄めてラウンドするようになった。
一緒に回る人?
それは、亡くなった師匠や、数々の名試合で敗れ去ったゴルファー達。
黙ってグラスを掲げると、ウィンクして笑ってくれる。
ああ、きっと、...だからゴルフは面白い。