ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

これが自分の精一杯

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きっかけは、自分のオーバースイングを笑われた時だった。

...Tさんは、運動は好きだったのに運動神経には自信が無かった。
小さな時から、野球でも卓球でもテニスでも、一生懸命やっているのにいつも補欠にしかなれなかった。
試合になると応援部隊の一員として、声をからして応援するしかなかった。
いつも晴れ舞台で脚光を浴びるレギュラーの仲間達が眩しくて、自分もそうなりたいと努力を惜しまなかったつもりだが、それ迄の人生で報われたことは一度もなかった。

それがゴルフを始めて、初めてそういう「レギュラー」と同じ土俵に立てたと思った。
補欠で試合に参加出来ない立場では無く、自分にも必ず出場機会が与えられる初めてのスポーツだ、と感じた。
仕事に必要で始めたゴルフに、すぐにハマった。
そして自己流で努力を重ねた結果、ほかの人達と対等の立場で話が出来る(と思っていた)「90」前後のスコアで回れるようになっていた。
自分の打順になると、気分は甲子園の打席のバッターだった。

・・・ところが、その頃から「ちょっとオーバースイングだね」と言われるようになった。
100を叩いていた頃は誰も何も言わなかったが、90を切るようになるといろいろな人が「ちょっとスイングがねえ...」と言い出した。
Tさんにとって、自己流のゴルフスイングは「十分に身体を回して、思い切り振る」つもりでいるだけなのだが、確かにトップで自分の左足のそばにクラブヘッドが見える。
スタートホールでやっている連続写真を買ってみると、クラブヘッドは殆ど地面につくくらい真下を向いている。
「80そこそこで回れるようになって、このスイングは格好悪い」...そう思ったTさんは、自分のオーバースイングを直そうとした。

左手が曲がっているからだ。
コックが遅いからだ。
腰が回り過ぎているからだ。
体重が左足に乗っているからだ。
タイミングが遅いからだ。
グリップが緩むからだ。
....

オーバースイングになる理由は沢山あるのが判った。
しかし、一つ一つ自分で直してみようと練習しても、いざボールを前にしてスイングすると...相変わらずクラブヘッドは自分の左側で地面を挿しているのが見える。
「才能が無くても努力だけは負けない」と自負するTさんは、来る日も来る日も練習場で自宅でオーバースイングを直そうとして、試行錯誤を繰り返した。

そのうちにスイングがぎこちなくなったのを感じ始めた。
そして、あるコンペのスタートホールで...スイングが出来なくなった。
左腕が地面と平行になる迄は、クラブをあげていける。
しかし、それ以上腕が上がらない。
自分でも不思議なくらいにそこで腕が動かなくなる。
無理矢理そこから腕を上げようとすると、身体がぎくしゃくして振り下ろせない。
汗だくになって、何度も腕を上げようとしたあと、Tさんはそのコンペで棄権した...スイングのイップスになったんだと言われた。

Tさんは、その後しばらくゴルフをやれなかった。
しかし、ゴルフをやりたい気持ちは強くなる一方で、なんとか普通にスイングを出来るようにして、またラウンドしたかった。

Tさんが苦労に苦労を重ねて、なんとかスイングを出来るようになって、再びボールを打てたのは3年半後だった。
...両手を離してグリップして、野球のように打つ。
上に上げる感覚では無く、横に振る感覚。
体重移動も回転も考えない。
ボールは両足の中間に置き、左手であげて右手で引っ叩く。
こういう意識で、トップを考えずに済み、クラブを振る事が出来るようになった。

もちろん、なかなか満足するようにはボールに当たらずに飛距離も出なくなったが、とりあえず100を切ることが出来るようにはなった。
一緒に回る人達は一瞬ぎょっとするようだけど、ボールが前に飛べば感心してくれる。

以前のオーバースイングと言われていた時のスコアはまだ出せないが、ゴルフをまた楽しめるようになったのが今は嬉しい。
自分は「一生懸命」しか取り柄がないんだから、オーバースイングもイップスもしょうがなかった。
今のスイングはそんな自分の「精一杯」。

自分のゴルフ人生に悔いはない。
そう思っている。