ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

悲しみのイップス...2

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このイップスシリーズの本題は「3」で書くつもりなんだけど、避けて通れないのがこの「2」で書くイップス
他のイップスで苦しんでいる人に比べると数は少ないけれどはっきりと症状が判り、なってしまうと苦しくてゴルフをやめてしまう比率が一番高いイップス
言葉で言うと「スイングイップス」とでも言うのだろうか。

このイップスになるとスムーズなスイングが出来なくなり、傍目でもそのスイングが酷く「変だ」と判ってしまう。
有名な例では「世界一酷いスイング」と言われる元NBAのスーパースター、チャールズ・バークレーのゴルフスイングが知られている。
「空飛ぶ冷蔵庫」と言われ豪快なダンクシュートで人気者だったバークレーが、ゴルフではスイングイップスの典型と言われてしまうのは、このイップスの原因が運動神経ではなく「心」の問題である証拠だろう。
彼のスイングはテークバックは問題ないが、トップから振り下ろし始めるとシャフトが水平になる当たりで動けなくなってしまう...本人はなんとか振り下ろそうと足の筋肉が痙攣する程力を入れて頑張る...が結局もう一度小さく反動を入れて無理矢理ボールにクラブをぶつけに行って終わり..当然殆どがミスショットになり飛距離も出ない。
彼のゴルフスイングを治そうと有名なレッスンプロが付ききりで矯正する番組をゴルフチャンネルで見たが、どんな方法でも結局彼のゴルフスイングは治らなかった。
素振りは問題ないし、プロにコーチされて小さなスイングから出来るようになっても、普通にボールを打とうとするとダウンの途中で身体が止まってしまうのだ...これはまるで金縛りにあったように見えて見ているだけでも苦しい。

彼程ではなくても、有名なのがあの江川のスイング...やはりトップからスムーズにてを振り下ろせなくて、無理矢理動かしに行って変な格好で打ってしまう...彼なりに苦しんで作り上げたスイングなんだと思うが、彼の運動神経の良さは判っているだけに余計にイップスの怖さを感じてしまう。

普通の人では少ないけれど、何人か見た。
一人は以前「素晴らしきアマチュアスイング」で書いた男性。
トップからダウンの途中で一旦座り込んでしまい、立ち上がる反動でスイングの続きをしていた...よくぞこんなスイングを作り上げたものだと、その情熱に頭が下がった。
そしてもう一人は漫画家仲間のD氏。
一時期トップから動かなくなり、顔を真っ赤にして振り下ろそうともがいていて...結局スイングをやめてしまうのを何回も見た。
トップから苦しくてクラブを放り投げてしまうことまであった...素振りではなんの引っかかりも無くスイング出来ているのに。
彼は何年かの苦しみの後、右足を極端に開き後ろを向いて振り下ろし始めるようにしてなんとか立ち直ることが出来た。
そしてもう一人がずっと以前ホームコースでハンデ5まで行った人物。
その変則スイングはクラブでも評判で、個性的ではあったがティーショット以外のスイングは問題なくいいスコアで廻っていた。
彼も素振りではスムーズに動くのに、実際にボールを前にするとトップから下ろして来て、左手が水平になるくらいでピタッと止まってしまう。
しかし、そこからもう一度左手を伸ばしたまま反動をつけてちょっと上げてから打ち抜く...飛距離は出ないが、スコアを作れるショットにはしていた。

このイップスに共通するのが、いずれも素振りはちゃんと振れていること。
ただ、実際にボールを前にして「打たなくてはいけない」状態になると途端に身体が言う事を聞かなくなる。
だから「心の問題」なんだと判るんだけど、修正するのは難しい。
あのバークレーを複数の世界的な有名プロコーチが治そうと頑張ったのに、結局彼のゴルフスイングは治らなかったのだ...そんな好奇の目に晒されながらでもゴルフを続ける程ゴルフが好きなのに。

このスイングイップスの原因や治療法は多くの人が解説しているけれど、明快な治療法は無い。

ただ、一つだけ...昔トム・ワトソンがオーバースイングを指摘された時に、「僕はスイングリズムを大事にしているから、スイングの形は気にしない」と言っていたのがずっと忘れられない。
私自身もリズムが良い時にはオーバースイングであり、以前「そのオーバースイングが治ったら奇麗なスイングなんだけど」と言われて、自分なりにオーバースイングを治そうとした時に、リズムが悪くなりトップからの切り返しがおかしくなった。
トップまで行って「あ、ちょっとオーバースイングになった」と感じると振り下ろせなくなるのだ。
何回かトップでスイングをやめてしまうことがあって、「あ、これがきっとイップスの原因になるんだ」と感じてスイングを「奇麗にする」ことを諦めた。
...案外、スイングイップスになる様な人と言うのは「他人から褒められる奇麗なスイング」を目指している人なのかも知れない。

私個人の考えだが、「スイングが奇麗で力の無い死んだ様な球を打つ人よりも、スイングが個性的であっても気持ちのこもった生きのいいボールを打つ人の方が好きだ」。
ゴルフを初めて間もない人なら良いけれど、ある程度ゴルフをやってボールを打ち抜けている人は「スイングの形」はあまり気にしない方が良いと思う。

スイングにスムーズさが無くなる原因には、そうした「見栄」と「欲」が影響している気がしてならない。