ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

打ち込み

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最初は3番ホールで、3打目を打とうとした時に「トン」と音がして、2-3メートルのところにボールがころころと転がって来た。

2打目をミスした私が、チョロした3打目を打とうとした時だった。
「危ないなあ」と思ったけれど、届いた訳じゃないし、チョロした私が大して前に進んでいなかった事に後ろの組は気がついてないんだろう、と思っていた。
4番でも、5メートルくらい後ろにボールが転がって来た。

前は4人、後ろは3人に囲まれた、夫とのツーサムのプレーだった。
前の4人はのんびりと楽しそうに回っており、後ろはアスリート系らしく30半ばくらいの3人がバックティーから回っていた。
夫と私は、どうしても4人がグリーンを終わるまで待つ時間が長くなり、後ろの組は待っている私たちにちょっとじれているようにも見えた。

そして7番ホール、長く待ったあげくやっとグリーンが空いたので、セカンドを打とうとした私のすぐそばを、「シュルシュル」と風を切る音が聞こえてボールが飛び越えて行った。
「きゃあ!」と悲鳴を上げた私を見て、夫がカートに飛び乗り、急ハンドルを切って後ろに走って行った。

「喧嘩になる!」...そう思った。
しかし、夫は背も高くなく逞しくもなく、普段の生活の中では私が苛つくくらい「大人しい」、と感じていた男。
(何度、「どうしてこんな男と結婚してしまったんだろう」、と後悔した事か。)
...30も半ばをこえて、「悪くなければいいか」ぐらいで決めた結婚だった。

そんな夫でも、「喧嘩になって怪我でもしたら」と心配になって、慌てて携帯を取り出して警察かコースかに電話する用意をした。
3人のところに行った夫は何かを大きな声で言っている。
しかし、3人の若者は大して悪い事をしたという様子もなく、ふてぶてしく黙って立っている。
いずれも、首一つは夫より大きい男達だ。

これは、喧嘩になったらただじゃ済まないな、と感じてコースの電話番号をプッシュし始めた。

そのとき、夫が何かを言ってこっちを振り向いた。
3人がこちらを見た。
すると急に3人の態度が変わって、しきりに夫に頭を下げるようになった。
こちらを見て、再び何度も頭を下げる。

最後は90度に頭を下げて謝っているように見えた。

...その後は、3人は私たちがグリーンに乗るまでティーショットを打とうとはせず、ほぼ一ホールの間隔を空けてプレーするようになった。
昼にはレストランで3人揃って、私に「危ない事をして、申し訳ありませんでした」と謝りに来た。

夫を見直した。
覇気がない、男らしくない男だと思っていたけど、やる時はやるんだ。
それに、私が危ない目にあった時に、ちゃんと身の危険も顧みずに行動する男だと判ったら、なんだか結婚して初めて「ちょっといいかも」なんて気持ちになっている。

ただ...
ただ、あの時、彼らに夫はなんて言ったんだ?
何を言われて、彼らは私を見てから、態度を急に変えたんだ?
...それが、今になって気になる。

夫にその時の事を聞いても、ニヤニヤ笑っているだけで何も教えてくれない。
夫を見直しはしたんだけれど、どうもその事が気になってしょうがない。

...本当に、あの時夫は、私の事をなんと言ったんだ?