ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

夫婦漫才

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本当に最近の平日のゴルフ場には、中高年の夫婦ゴルファーが多い。
オープンコンペなどに一人で参加すると、多くの場合そうした夫婦がいる組に入れられる。

この夫婦ゴルファーと言うヤツ、ラウンド途中で夫婦喧嘩が始まる事が多い。
私にも身に覚えがある事だが、奥さんがまだビギナーのうちは夫の方が周りを気にして「遅れないように」「迷惑をかけないように」という気持ちから奥さんに厳しく当たる事が原因である事が多い。
これは、同伴競技者のいたわりや理解で何とかなる話だし、奥さんがだんだんラウンドに慣れてくれば喧嘩の原因も無くなる。

困るのが奥さんが上手くなり過ぎて、旦那の「地位」を脅かして来る場合。
以前この項で描いた事だが、オープンコンペに一緒に行きながら違う組でまわっている人達が居た...その70前後の男は、スコア的には110くらいでまわっている腕前だったがいつも後ろの組を気にしている。
訳を聞くと「後ろの組で自分の女房がまわって居るんです」「最近はずっと私よりいいスコアでまわっているんで、一緒にまわるとそのドヤ顔に殺意を覚えるんですよ。」
「それで不愉快にならない為に、別々にまわるようにしてるんですが...帰りの車でスコアを聞かれると腹が立つんですよねえ...見てると、今日も私よりスコアがいいようです...」


面白い事に夫婦でゴルフを楽しんでいる人達の8割方は、奥さんの方がスイングが奇麗だ。
たとえスコアは夫の方が良くても、殆どの男は自己流のスイングを「血と汗と涙の反復練習でボールに当たるようになった」という感じで作り上げている....なのでそれぞれ個性に溢れた千差万別の(自分の理想とは全然違った)「異端のスイング」になってしまっている。
対して奥さん達は、(夫が教えるのが面倒と言う事もあって)練習場のゴルフ教室などで最初に基本的なスイングを習っている人が多く、見た目は夫よりずっと奇麗なスイングの持ち主が多い。
もちろん男に比べて非力故に、合理的な動きでなかったらボールが全然飛ばないと言う事も理由にあるだろう。

この日一緒になった夫婦ゴルファーもその例外ではなく、筋骨隆々としたやや太めの大きな旦那は(やっぱり)かなりクセのある超自己流スイング....その体から来るパワーの半分もボールに伝わってはいないだろうという「勿体ないスイング」...ただしボールを「拾う」事は非常に上手い。
そして奥さんは、彫りの深い美人で女性としては大柄(165センチくらい)の体から実に奇麗なフォームでスイングする...おまけにヘッドを使うのが上手く、タイミングも実にいい。

アウトはコンペだったので、奥さんはレディスティーからのプレー...白ティーに比べて50ヤード近く前にあるレディスティーは、ハザードを殆ど避けられるので午前中のスコアは奥さんの方が良かったようだ。
その夫婦のプレー...今は東京住まいだが出身が二人とも関西と言う事で、普通の会話がまるで「ボケと突っ込み」の「夫婦漫才」になってしまうのが面白い。
なんで関西の人間て、自然に普通に漫才が出来るんだろう?
(人を笑わせられないヤツは生きて行けないって本当か?)
我々一緒にまわっているものは、そのやり取りだけで腹を抱えて笑ってしまう。

午前中の結果が気に入らなかったらしく、夫が「お前な、午後は同じティーからやりーな」と。
「え~、そんな...白ティーからなんて無理ですよ~」
「白ティーからやってこそゴルフちゅうのは面白いんや、そこでスコア出してみい」
...どうも午前中負けたのが気に入らなかったらしい。

それでも、(多分)奥さんは旦那を立てて午後は負けるつもりで白ティーからのプレーを受け入れた(笑)。
....同じティーからだとやはり絶対的な飛距離は夫の方が出るので、スコア的には夫リードのまま17番迄来た。
5ポイント程夫リードで来た17番、一番飛ばない奥さんがいつもトップで打っていたが、この時は珍しくドチョロした....すかさず「ガーッハッハッハ!」と大笑い...「お前なにやっとるねん」と笑いが止まらない。
さすがに奥さんもムッとしていたが、小さな声で「旦那立てるのも妻のつとめやんか・・・」。
しかし、ナイスショットした旦那のセカンドは先っぽに当たって右の池方向に。
「大丈夫、絶対に残ってるよ!」...奥さんが勇気づける(ホントいい奥さんだ)...しかし、皆でボールを捜したが見つからず。
奥さんもドチョロからドタバタを繰り返し、やっとグリーンへ...旦那も池のそばからまた木に当ててなんだかやっていたが....グリーン上で「お前いくつオン?」「あたし「7オン...」「俺9オンや...」
聞いていた私は「これで3打差か...まあ面白くなって来たな」

「あたしは何時だって旦那のあなたを立てているでしょ?」
「いつもあなたがいいスコアで上がるように応援してるんだから」
「同じティーからだったら、あなたの方が絶対に上手いの知ってるんだから」
奥さんは大叩きした旦那に声をかけている...旦那はムッとした顔で黙っている...

最終ホール、グリーン周りは池で囲まれていて、なかなか「何かが起きそうな」ホール。
ここで最初に打った奥さんはまたチョロ...白ティーからだと言う事で力が入り過ぎている。
それをみて旦那が「よ~し!」
旦那はナイスショット...「上手~い」「あなたはやっぱり上手いわよ」
小さく旦那はガッツポーズ。

奥さんは2打目はナイスショットしたが、まだクリーク越えには170ヤード以上ある。
ここで奥さんフェアウェイウッドで勝負に出る...それがぎりぎりクリークを越えカラー迄。
「やったー!」「今日一よ~!」と素直に喜んでいる。
それをみた旦那のセカンドは、グリーン迄160ヤード...ショートウッドのショットはミスとなったが、クリーク手前のバンカーの土手に当たったので池ポチャは免れて、50ヤード程のグリーンへのショット。
「あなたー、頑張って!」
奥さんの可愛らしい声が響く。

....「あー!」
旦那の悲鳴を残してダフったボールは池の中に...

そのポチャンと言う音と上がった水しぶきをみた奥さん...

「よっしゃー!!!」

「あ!」「つい...」
うなだれる旦那と、呆然として奥さんの顔を見る我々男二人...

「だめね、本音を出しちゃ」
と小さな声で言って舌を出した奥さんを見て、我々は腹を抱えて大笑い。
奥さんはカラーから2パット...旦那はアプローチもドタバタ、パットもドタバタで一体いくつになったのか(笑)。

後がどうなったかは知らないが、楽しい関西の夫婦漫才だもの笑って終わりになるんだろ....こんなゴルフも楽しいもんだ。

しかし、あの時の奥さんの「よっしゃー!!!」の声。
ホールの向こうまでこだまして、コース中に響き渡るようないい声だったなあ(笑)。