ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

負けドラゴン...戦士の休息

案内された6人用の雑魚部屋には、先客が5人。
明るくはない照明に下に、ボロボロに傷つき疲れた顔の、同年輩の負けドラゴンが五人。
それぞれの力のない目の先に、甲斐甲斐しく世話をするカンゴシという名の天使達。
腑抜けて汚く、いじけて臭い老いたドラゴン達を分け隔て無く世話をする。


かっては(スーパードラゴン程じゃ無くたって)それなりに強く格好良かったドラゴン達も、今じゃすっかり年老いて負け続けて来た年輪だけが記憶に刻まれて、ただ醜く偏屈な風体になっちまっている。
でも、天使達は知っている。
この負けドラゴン達も、「守るもの」さえあれば全く別な見違えるような戦士になれる事を...まあ、それも、リミットはあと1回くらいだろうけれど。

で、グダグダした日々の途中、時折召集の笛が鳴る。

すると、それぞれ負けドラゴン達の濁って光を失っていた目に光が戻り、緩みきっていた身体に気合が入る。
「あいつの別れた家族の娘がピンチなんだって」
「あいつの、大昔に好きで別れた女が助けを求めている」
「あいつは恋女房が倒れたんだって」
「あいつの世話になった人が...」


「俺の出番なのか?」
,,,ただ、これはもう最後の一回きりの復活戦。
自分の人生の大事な人の一大事に、ここで溜めていた全力を込めて戦うべきの最後の一戦。

が、おとぎ話じゃあるまいし、こんな戦いは殆ど負ける。

別れた娘には新しい親が、好きだった女にはとっくに新しい男が、恋女房はもう既にお前を見限り、世話になった人はお前なんかあてにしていない。
今のトラブルなんて殆ど金で始末が着くもんだから、お前が役に立つ肉弾一発命懸けの戦いなんて今は無い。

...肉弾相打つ命懸けの戦いならば、せめて「守りたい人」のために「相討ち覚悟」の勝負で見せ所はあったのに。
かくて、「守る者が無くなった」「守るべきモノを失った」負けドラゴン達は、完全に存在価値を失う。


もう直ぐ、この野戦病院も姿を消すんだろう。
誰かの為に負け続けて来た同年輩の負けドラゴン達も、「守るべき者」を失うとここで休息して復活を期す意義が見つけられなくなる。
そうして、負けドラゴン達は消えて行く。


誰かのためなら戦えても、自分のために戦うことが苦手な寂しい男達とともに。