ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

便利になっても幸せにならない「進歩」...1

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確かに便利にはなった。

最近の俺の仕事(イラストレーター)に関してだけ見ても、この30年くらいで物凄い変化があった。

一番の変化は「紙」と「絵の具」を使わなくなったこと。
もっと言えば、イラストを描くことに関しての道具...イラストを描き始めた頃から使っていた筆・ペン・ロットリング・定規・イラストボードなどをここ10年以上全く使っていない。
絵の具の類となると、必死に金を貯めて揃えたリキテックス(合成樹脂絵の具)やガッシュ透明水彩などはとっくに硬化して使えなくなり、カラーインクの容器のゴムもやはり劣化して使えなくなり、インク自体も変質・変色してもう使えない。
モノクロのイラストや漫画を描くのに使ったスクリーントーンやトレーシングペーパーもここ10年くらい買うことはなくなった。...
他にカッターナイフやピンセット・ペン先も、もう錆びついている。
種々のイラスト用の紙類も、棚に積んだままで変色し、ついには虫に食われてしまって先日処分してしまった。

そして、それらを買っていた画材屋は何年か前に最後の店が潰れて、この自分が住んでいる「市」には画材店は無くなった。
これらの画材を使わなくなった・買わなくなった理由は、仕事をしている新聞社や出版社が全て「これからはデジタル入稿にしてください」ということになったから。
(それまで乱雑にデスクに万年筆と4百字詰めの原稿用紙が並んでいた編集部の風景が、ある日一斉に同じ型のパソコンとキーボードが並ぶ風景に変わった時には本当に驚いたものだった...そういう時代が「もう来てしまった」ことを実感した)

幸い自分はその前からその便利さに興味があって、友人からマックの中古パソコンを買い受け、それでパソコンにペンタブレットと「フォトショップ」と「ペインター」というソフトを使ってイラストを描くようにはなっていた。
しかし、描いたイラストは気分転換を兼ねて、描いたものをプリントアウトして編集まで持って行くことにしていた。
(帰りに編集者達と一杯飲むことも目的でもあった(笑))

しかし、それ以降は編集者との付き合いはほとんどメールのみということになった...今じゃあったことのない編集者と仕事をすることだってあるのが不思議。

そうして、仕事は全てパソコンでするようになり、アナログな道具で描くことは少なくなった。
道具としてもパソコンは実に便利...何より絵の具がいらない、なんでも簡単に色をつけられるし、何よりも仕事上で便利なのが編集者の修正要請に短い時間で応えられること。
色の変更でもレイアウトの変更でも、ちょっとした修正ならあらかじめ修正しやすいように描いているので、ほんのわずかな時間で出来てしまう。
イラストレーターになりたての時代は、一枚一枚イラストボードに絵の具で描いていたから、ちょっとした事でも修正しなくてはならない時には徹夜で初めから描き直したものだった。

自分ではかなりラッキーにデジタル時代に対応出来てきたとは思っているが、周りではそんな恩恵を受けた人よりも「酷い目」にあった人の方がはるかに多い。
ずっとそういうことが気になっていたので、(馬鹿は馬鹿なりに)それを書いておきたい。

初めてそうした時代の変化を身近に感じたのは、30前の時だった。


(長くなるので、また次回)