ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

夫の実家

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「今度の休日、実家に行こうと思うんだけど..」
夫が申し訳なさそうに、言いに来た。
「ちょっと、おふくろの様子見て来ようと思うんだけど」
「わかった」
悪いけど、あまり乗り気じゃない気分を表すようにして答える。

夫の実家は、東京から高速に乗って2時間ちょっと。
代々地主を続けて来たと言う広い土地を持つ大きな屋敷で、地元の名家らしい。

結婚を決めるとき、姑と嫁の争いというのはよくテレビや本で見ていて知ってはいたが、実際にそんな酷い関係になる事はないだろうと思っていた。
自分のうちは、中学の時に父が事故で無くなった時に生活が苦しくなったため、母が一人で働いて兄弟3人を育てていた。
しかし、あまり身体が強くなかった母を見かねて長女だった自分は高校を中退して働き出した。
昼間はスーパーのレジをやり、夕方6時からは近所のゴルフ練習場の受付や掃除などをバイトでするようになった。
10年くらいそうして働いていた時、練習場の常連であった今の夫と親しくなった。

5年程付き合った後、プロポーズされて結婚したが...初めて連れて行かれた夫の実家で、姑にはっきり言われた。
「息子がどうしてもと言うから結婚させたけれど、あなたの様な学歴も家柄も良くない人はうちの嫁とは認めません」
...あまりに面と向かってはっきり言われたので、驚いて口をぽかんと開けたまま何も言えなかった。
夫は間に立って気を使ってくれるものの、自分はただ「家に泊まりに来た息子の知り合い」の扱いしか受けていないのはよくわかった。

「うちのおふくろは家を継ぐ為に立派な家系や学歴の女性を探していたらしいんだ。」
「兄貴もおふくろの目に叶わない女性と恋愛結婚してさ、とうとう夫婦でこの家を出て行ったんだ。」
「うちは一緒に住まないからさ、なんとか我慢してくれ。」
そう頼まれて、年に一度くらい数日の我慢と覚悟して夫の里帰りに付き合って来た。

姑は気性が激しく頑固で、その態度は初対面のときからずっと変わらなかった。

そんな姑も高齢になって身体が弱り寝込む事が多くなったというので、夫が「2ヶ月に一回くらい帰りたいので付き合ってくれないか」と言って来た。
「でも、お義母さんは、あたしが行ってもちっとも嬉しい顔しないわよ」
「まだ、結婚してから一回もお義母さんからありがとうって言われた事ないもの」
「わかってる...息子の俺でさえ、おふくろの頭の固さには...」
「でも、兄貴が家と絶縁すると言って家を出てから、余計にああなっちゃったんだ...お袋は兄貴を溺愛していたからなあ。」

「俺一人で帰っても料理一つ作れないし、こまごまとした事が判らないから、頼む!一緒に帰ってくれ。」

「そのかわり、行きと帰りに2ラウンドはこの辺のゴルフ場に連れて行くから」
そうだった...夫と自分が知り合ったのはゴルフ練習場。
夫は熱心な常連なのに、あまり上手いとは言えないアベレージゴルファー...はっきり言えば下手な部類で、100を切るかどうかがいつもラウンドでのメインテーマだった。
自分はゴルフ練習場で夕方6時から11時まで働いていたが、特にゴルフに興味がある訳ではなく、クラブを振った事もなかった。
夫がいつも声をかけてくれるようになってから、少しは打ったりしてみたが面白いとも思えなかった。
しかし、結婚して夫に教わりながらラウンドし始めてから、急にゴルフに夢中になった。
ゴルフ友達も沢山出来たし、特に近所に住む同年輩の3人とはいつも同じようなスコアを争う握り相手だった(と言っても握るのはラウンド後やお茶飲み会のときの甘いものの代金だったけど)
みんな月に1~2回ラウンドのゴルファーだったけど、交代で勝ったり負けたりでライバル心は結構持っていた。

それが、夫の実家に度々行くようになってから、自分が頭一つ抜け出すスコアでまわれるようになった。
その訳がこれ。
夫の実家の周りや行き帰りの道には、「遠いけど」という形容詞がつく「良いコース」が沢山あった。
姑のきつい言葉を我慢して世話するかわりに、夫がそれらのコースを行きと帰りに2ラウンド連れて行ってくれるようになった。
ここまで遠いとプレーフィーも東京の近くのコースの半額にもならない値段で、二人でまわっても1万円で十分おつりがあった。

つい最近の仲間4人でのラウンドでは、自分がぶっちぎりで勝った。
「なんで、急にそんなに上手くなったの?」「なんか普通の上手い人みたいじゃない?」
仲間にさんざんそんなことを言われた。
「これはね、姑のおかげよ」
「え~、いいわねえ、姑さんが理解があって」「姑さんて昔ゴルフやってたの?」
なんて頓珍漢な質問が相次いだ。
「まあ、そんなもんよ」

2~3日間の、辛い意地悪や侮辱への我慢とストレスの代償に、行き帰りのゴルフを楽しんでいる、なんてとても他人には言えやしない。
あまりの意地悪と屈辱に家を出た義理の姉さんの事を思うと、そんな事を楽しみに我慢して世話をしているなんてとても言えやしない。


でも、確かに最近自分のゴルフが良くなっているのは感じている。
...もう夫よりは上手くなっている。