ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

潮時

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あなたがホールアウトしてからもう十年経ったのね。

私はあなたとの約束を守って、月に一度はここに通って来たけれど..
最近は18ホール回る事は殆ど無くなったわ。
いつも10番から9ホール回るだけ。

それに、ずいぶんこのコースも変わったわ。
あなたは40年前、「俺達は名門コースには入れないけど、このコースはきっと俺達が年をとった頃には名門コースに引けを取らないコースになるから」なんて言って、ものすごく無理して二人分の会員権を買ったのよね。
ローンがきつくて、子供も一人しか育てられなかったし、ゴルフに行く回数が減ったのは今じゃ笑い話になるのかしら。

それでも、月に2回はこのコースに二人で来たわよね。
無理した甲斐が十分あったと納得出来るくらい愉しかった。
あなたは頑張って月例に出て、ハンデが少なくなるのが生き甲斐みたいだった。
何度か優勝して、最後はハンデが7までになったわね。
クラチャンや理事長杯なんて大きな試合には縁がなかったけれど、それなりにコースでは名前を知られてあなたは幸せそうだった。
あなたには居心地の良いコースになったのよね。

そうそう、クラブの競技では名前は残らなかったけれど、アウトのショートホールにホールインワンの記念樹を残せたわね。
ラッキーだったって言っていたけれど、ラウンド度にその木に水をやるあなたは嬉しそうだった。

私はあなたについて行って、いつも月例はCクラスで遊んでいただけだった。
なんにも入賞は出来なかったけど、毎月必ず参加していたので親しい仲間は沢山出来たわ。
何十年も、それは楽しかった。

でも、あなたの「将来はきっと名門コースに負けないコースになる」と言う予想は外れたわ。
このコースも結局預託金が返せなくて倒産してしまったんだから。
しばらくは会員達が建て直そうとしていたけれど、コースがだんだん荒れてしまって...結局、大手のゴルフコース経営会社に買い取られて、コースの名前も変わったわ。

あなたに、「あのコースには古い友達や知り合いが多いし、支配人や従業員の人たちもみんなよく知ったいい人達なんだから、一人になってもゴルフを楽しんで欲しい」と言われていたから、電車でこうして毎月通い続けて来たんだけれど...
経営が変わって支配人も従業員も変わってしまったし、古いメンバーも殆どがそのごたごたで辞めて行ってしまったわ。

...こんな風にゴルフが終わったあとの、夕日が沈むコースの風景を見るのが好きだったんだけど。
新しい従業員の人たちには、私がいるので帰れないのが不満なんでしょうね。

そろそろ、潮時なのね。
コースに来る理由が少なくなって来て...そろそろ私も長い19番ホールを終わらせなくちゃ。
多分、これが最後のホールアウト。


それから、あなたの残したホールインワンの木...絶対にみんなが食べられるような「実のなる木がいい」と主張して、無理矢理植えた無花果の木。
この前行ったら、カミキリムシにやられて枯れてたわ。
やっぱり...潮時なのね。