ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

おまじない

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そのオープンコンペでは、一人参加の人4人が一組になった。
私と、60年配のSさん、50歳くらいのMさんとまだ30代のHさん...それぞれ私よりもずっと日に焼けていて、その黒さがここ最近のラウンド回数の多さを物語っていた。

オープンコンペの一人参加だからといって皆腕自慢の上級者という訳ではなく、むしろ下手でも「ゴルフ好きの度合いが強い人たち」という場合が多い。
この日もスタートホールでのそれぞれ個性的なスングを見て、「ああ、今日はゴルフ好きの人たちとの愉しいラウンドになる」と思った。

が、スタートしてみると...60年配のSさんが、飛距離は一番でないしセカンドだってグリーンには殆ど乗らないし、アプローチもちっとも上手そうに見えない不器用そうな転がしで大体ワンピンに寄せるだけ...なんと、それを殆ど全部入れてくる!
気がつくと、殆どオナーはSさんにとられ、7番を終わってSさんは1オーバー、自分は4オーバー、他の二人は7オーバーと10オーバーとなっていた。
我々3人が、そのSさんのゴルフに注目し出したのは当然だろう。

見ていると若いHさんは、自分のパットの順番になると毎回きっちりと歩測し、手前から向こうからラインを読み、ボールのラインを合わせてからパットする...ふつうに入ったり入らなかったり。
Mさんも、最近の流行なのか歩測を入念にして、ボールのラインを合わせる事に神経質な程集中してからパットをする...残念ながら、それだけの事をしても第一パットは全然入らない。

それに対してSさんは、グリーンに上がりマークをする前にグリーンの外を大きく回って歩きながらラインを見て、ボール手前からラインを見てマークをする...それで終わり。
自分の番になったら、あらかじめ決めておいたラインに迷いもせずに打って行く...それが殆ど入るし、外しても本当に惜しいパットとなる。

変わっているのは、大体Sさんが一番内側につけるのでパットは最後に打つんだけど、他の人がパットを打つ時に邪魔にならない所で静かにボールマークを直している事。
それも多い時には10個以上のマークを直したりしている。

昼の休憩時に若いHさんがSさんに聞いた。
「パットがお上手ですけど、どうやったらあんな風にパットが入る様になるんですか?」
「僕はパットが苦手で、教わったルーティン通りにやってるんですが..全然入りません」
Mさんも
「なにかコツがあるんですか?」
「もう私なんか見ていて羨ましくて」

Sさん、困った顔をして
「いやあ、何も秘訣なんてありませんよ」
「私、元々パット得意じゃありませんし」

二人は引き下がらずに
「なにかヒントでも教えてくれませんか?」

本当に困った顔をしていたSさんに、二人は必死に頼み込む...確かにアウトで38、それも拾いまくっての38は、「あんなスイングで」「あんなゴルフで」というSさん故に、逆に凄みさえ感じさせるものだった。
その殆どが入れ頃外し頃の距離のパットを入れまくったものだったから、自分も本当は「コツ」を聞きたかった。

「じゃあ、私がやっている事を教えますけど...オカルトなんですよ」
「だから、これやったからってパットが入る訳じゃないですよ」
「私は、これでパットが入る様になったってだけですから」

そのSさんのコツは、「ボールマークを直す事」だった。
一つ直す度に「奇麗に直してあげるから、なんとか私のパットを入れてくれないか?」とグリーンに頼み込むんだそうだ。
Sさんによると、ボールマーク一つ直すと「半分くらい入るかな?」
二つ直すと「入る可能性が高くなったかな?」
三つ直すと「入る気がする」
四つ直すと「きっと入る」
てな具合に考える様になるそうだ。
だから、沢山ボールマークがあるグリーンだと、沢山直せるので「入るに決まっている」くらいの気持ちになれるんだそうだ。
逆にボールマークが一つもない様なグリーンだと「どうしよう!」って気持ちになって焦ってしまうんだとか。(確かに珍しく外したグリーンは奇麗な状態だった)

そのためにSさんはいつも使い慣れた愛用のグリーンフォークをポケットに入れていると言う...見せてもらったそのフォークは、握りの部分と刃先の部分だけメッキが薄れて実に「愛用品」の雰囲気が漂う美しいものだった。

当然、その日の午後はみんな必死にボールマーク直し。
不思議な事に、「劇的に」ではなかったが、Sさん以外の3人のパット数も午前中より少なくなった。

...ボールマークを直しているうちに「なあ、グリーンの神様よ。丁寧に直してあげるから、頼むから俺のパットを...」なんて語りかけている自分に気がつく。

確かに「オカルト」に違いないけれど、効果の大小はあるけれど、やってみると確かに効き目がある。
これは、試してみても損は無い。

Sさん、今日もきっとどこかのグリーンで、お願いしながらボールマークを直してる。