ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

退職

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Sさんは、本当は血液占いなんて信じちゃいない。
でも、自分たちのことを説明するには血液占いが一番みんなが納得するし無難なので、最近はそればかりだ。

去年、Sさんの夫は退職した。
その夫の退職した日に合わせて、自分も「夫の奥さん」を退職する、と夫に宣言した。
ただ、離婚する訳ではない。
全てを夫に合わせていた生活を、「もうやめる」というだけの話だ。

血液型で言うと、SさんはB型、夫はA型。
夫は真面目で几帳面で、現実的で心配性で、全てが計画的でその通りに進まないと気がすまない。
対してSさんは、真面目そうには見えないけど真面目ながら適当で、楽天的で堅苦しい予定が嫌いで、何となく幸せなら満足している。
夫は決まった時間(何時何分)に食事が出来てないと怒るし、四角い部屋を丸く掃くSさんの掃除の仕方が気に入らない...部屋の隅の塵をいちいちチェックするような性格だった。
Sさんは、夫の四角四面で神経質な生活パターン通りに合わせて暮らすのが苦痛でならなかった。

40年弱の結婚生活中、息が詰まるようで疲れ果て、思い余って夫と離婚しようと思ったことが3回程あった。
しかし、夫は度を過ぎて几帳面で神経質なだけで、子供は可愛がり給料もしっかり渡してくれる。
他の旦那達と比べて、特別「悪い」訳ではなかったので思いとどまってきた。

ただ、退職後のこれから先もずっと、夫の細かく決めた予定や決まり通りに生活する気にはなれなかった。
それで、夫に「私もあなたの奥さんを退職します」と宣言して、それぞれが自分で思う通りに生きるということを確認した。
離婚するつもりはなかった。
...夫は、始めはひどく驚いていたが、渋々納得してくれた。

「さあ、これでゴルフも私の好きなように楽しめる。」
それがSさんのもう一つの喜び。
夫はその几帳面すぎる性格のためか親しいゴルフ仲間が少なく、この何年かは夫婦でゴルフに行くことが多かった。
夫はそれで奥さん孝行をしているつもりだったらしいが、Sさん自身は夫とのゴルフは楽しくなかった。

夫のゴルフはその計画的かつ安全第一のゴルフのため、基本ボギーペース...「行くか刻むか」では絶対に刻み、...Sさんにとっては何が楽しいのか判らないゴルフだった。
Sさんのイケイケゴルフを心底馬鹿にしていて、偶にうまくいって良いスコアが出ても絶対に褒めてはくれなかった。
それなのに、そのコースが有名な誰々の設計だとか、もう何年経った名門だとか、この借景がデザインが奇麗だとか、従業員のマナーがだとか、能書きはうるさかった。

Sさんにとってはそんなことは殆どどうでも良いことで、一打一打の冒険に心躍らせ、一か八かの勝負に緊張し、良いスコアでも悪いスコアでも思い切り楽しみ、天気や季節に感動するのがゴルフだった。
Sさんは近所の友達とのゴルフの方が夫とのゴルフよりずっと楽しく、夫とのゴルフはいわば「お勤め」として付き合った。
...その夫とのゴルフも「退職する」と宣言した。

夫は、その後一緒にゴルフをする相手が居なかったらしく、退職金で安いゴルフコースのメンバーになり、月に何回か一人でコースに行っている。
Sさんは近所の奥さん同士で、あっちに行ったりこっちに行ったり、ワイワイガヤガヤ楽しいゴルフを月に1~2回楽しんでいる。


(...Sさんが夫とのゴルフで一番嫌だったのは、几帳面な夫が必ず行きも帰りも同じ道しか通らない...その退屈さに耐えられなかった、ということは誰にも言っていない)