ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

理科系

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Kさんは、子供の頃から理科系の勉強がよくできた。
実際に大学を出た後は、大企業の研究員として就職し、それなりの実績をあげてきた。

彼がゴルフと出会ったのは30歳のとき、ゴルフ好きな上司との付き合いから始めたもの。
それほど運動が得意な方ではなかったが、ゴルフというものが「止まっているボール」を自分で動かす球技なので、「自分にも何とかなりそう」な感じがした。
実際、うまくドライバーが当たった時に感じる「感触」は、それまでの人生で感じたことの無い「快感」で、それにはまり込んで行く自分を感じた。

そうなると、本来研究熱心で分析が得意な彼は、あらゆるレッスン書やビデオを買い込んで、無駄を省いて合理的で正確なスイングを追求しようと決心した。
止まっているボールを打つのだから、彼の得意分野の数式で「そのスイングスピードでの反発係数」だの、「最大飛距離」だの、「ボールの回転」だの、「打撃角度」だの、あるいは材質による「摩擦係数」だの...あらゆることが、正確な答えとして導きだされるはずだと確信した。
そして有名選手のビデオで、どうやって最大のヘッドスピードを出せるのか、どのように再現性の高いスイングを自分のものにしているのか...
自分の体力や体型も考えて...研究した。
もちろん体力向上の努力もした。

結果は出た。
35でシングル入りして、ハンデは6まで行った。
...しかし、40になってもハンデはそのままだった。
もちろん週に5日以上会社に出勤しているので、練習する時間やラウンドする時間がそれ以上増やせなかったのが一つの原因であるとは感じていた。
しかし、それでも彼はもっといい答えがあるはずと考えて研究を続けた。
休みの時はいつも練習と分析と研究を続けた。

45になってもハンデはあがらないどころか、8に落ちてしまった。
そのころ、仲の良かったライバルに「最近、ゴルフが嫌いになったのか?」なんて聞かれた。
「いや、そんなこと無いけど...むしろますますのめり込んでるくらいだ。」
「じつは、他のメンバーがお前とゴルフやっても楽しくない、って言ってるんだ。」
「いつもしかめっ面して、うまく行かないと機嫌が悪くなって、他の人プレーは見てないし..ってな。」
「特に最近評判悪いみたいだから気をつけろよ。」

Kさんは、この言葉に驚いた。
自分のスイングとゴルフを追求し続けて、正解が出るはずの数式に答えが出ずにイライラとしていた日々が続いていた...それが、そんな風に表に出ていたなんて。

Kさんは半年ほどゴルフからはなれて、考えた。
最近は実際にゴルフが楽しくないかも、と感じてもいたからだ。

...またゴルフを再開したとき、Kさんは「答え」を見つけようとするのをやめた。
「理科系頭の自分だけれど、文科系の頭になって感じてみよう」と思ったのだ。
実際には骨の髄からの理科系人間の自分だから、答えがはっきり解らないと気がすまない思いは消えないんだけれど。
...今は「曖昧さ」や「何となく」や「いい加減」な気持ちでゴルフをやろうと努力している。
うっかりすると眉間にしわ寄せて考えている自分がいるんだけれど、最近ようやく目の下のボールより目の上の風景を見る時間の方が長くなったような気がする。

スコアの上下動が激しくなって、とんでもなく悪いスコアも顔を出すけれど、ゴルフの違う楽しみが少しずつ出てきたようだ。
...まだ、悪い評判は消えてはいないけれど。