ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

誘惑と罠

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ゴルフの魅力ってのは「飛距離」である、ってのは世のゴルファーの九割以上が納得する事実だろう。
子供の頃からゴルフに触れることのできた人の気持ちはわからないが、俺のように30半ばで初めて「ゴルフ」なんて代物を体験した人たちは、まずその当たった時の飛距離にぶん殴られたようなショックを受ける。
今まではボールを投げて100メートル、ホームラン打っても120メートル程度が自分が体験した飛距離の現実だったろう...それが、ゴルフじゃ当たり損ねてもボールはその程度は飛んで行く。
ちょっと上手く行けば200メートルを超えることが普通になる。
おまけに、ある程度の方向さえコントロールできれば、飛べば飛ぶだけ有利になるゲームスタイルなんだから、誰でも「飛ばす」ことに夢中になるのはしょうがない。
用品メーカーだってそのことは十分わかっているから、ともかく「飛んで曲がらない」を一番の売り文句にした製品を作り続けるし、高額に設定したそんな商品ほど一般ゴルファーは無理しても欲しがる。
おまけにおバカな男どもは(もちろん自分も含めて、だ)、子供の頃から「飛ばしっこじゃ負けたくない」なんて本能が強いんだから、余計に興奮して馬鹿になる。
結果なんて出てやしないのに、毎年同じ宣伝文句に飛びついて「新製品」を買うんだから、メーカーから見たら「鴨がネギ背負って味噌と鍋まで自分で持ってる」状態だろうよ。

これが馬鹿なアマチュアの話なら、ただの自虐エピソードで済む話なんだけど...プロも「飯と金と名誉」がかかってるから、ほとんど全員が「飛ばし」に夢中になっているのが今のゴルフ界の現実。

タイガー以来、用品用具の改良とトレーニングの進歩で、プロの世界じゃちょっと無理すれば誰もが300yの飛距離に手が届くようになったために、コースがそれに対応して距離を伸ばすように改造を重ねるようになった。
そのために以前はそれなりに居た、小技で勝負というプロじゃあコースに歯が立たなくなってしまった。
もちろん飛ばし屋とされるプロもまたそれに対抗するために体を鍛え、ヘッドスピードを増すためにトレーニングを重ねる。

そんな状態の今のゴルフ界の問題の象徴のような存在が、石川とデイだ。
石川はトータルバランスと小技のセンスで、日本のゴルフ界を若くして制覇して、アメリカつまり世界ツアーへと挑んだ。
しかし、日本では「飛ばし屋」として名を馳せた石川も、今の世界基準で言えば普通以下...車で言えば、3000~5000cc、下手すれば8000ccのエンジンを積んだアメリカ車をはじめとする社会に入ると、いかに高性能とは言え600~1000ccにターボエンジンを積んだ小さな乗用車にすぎない...これでインディのカーレースには勝てっこないのだ。

コースのもっと短い...あるいはマスターズのオーガスタや全英オープンの開かれる古いコースなら勝ち目はあるかもしれないが、今のアメリカ基準の7500yを超えるパー70のコースなんてのには、まず無理なのだ。

その証拠になるのがデイの故障...今の距離の伸びたアメリカツアーに最も対応できると言われている「飛ばし屋」の一人だが、最近ずっと背筋の故障に見舞われている。
その原因が「速すぎるヘッドスピード」に、筋肉がついていけないから、なんだとか。
「飛ばす」ためにはヘッドスピードを上げることが必要なのは当たり前だが、トレーニングでヘッドスピードを上げることはできても、その動きの負荷に筋肉が耐えきれなくなってきているのだ。
ジョン・デイリーがあんなオーバースイングで、「いかにも」という感じでぶっ叩いて300y以上を吹っ飛ばしたのは、それこそいかにも怪物らしくて我々は驚き囃し立てたけど、今じゃ普通のスイングの連中がそんな飛距離を平気で叩き出す。

やっぱり、これは異常だ。
鍛えに鍛えたプロゴルファーでも、今の速すぎるスイングでは筋肉自体が人体の限界を超えてしまって、故障する。
飛距離を伸ばすことには限度が必要だってことだ...メーカーの反対で無理なことだろうけれど、プロゴルファーはパーシモンをはじめとする自然素材のクラブを使用し、ボールは糸巻きボールに限定するべきだと思う。
だが、一般のゴルファーは制限無しでいい。
プロがそうした馬鹿らしい飛距離のゴルフを競わなくなれば、現代テクノロジーを駆使した用具を使う一般アマチュアとの差が少なくなって、そのコース攻略の参考になる部分が多くなるだろう。
やがてアマチュアゴルファーにも、「飛ばなくても面白い」ゴルフに興味を示す人がもっと増えるかもしれない。

そうした世界になれば、本来の石川やルーク・ドナルド、かってのコーリー・ペイビンのようにセンスで勝負するプロゴルファーの活躍の場が増え、そうしたゴルフの魅力も理解する人が増えて、プロツアーもインディレースじゃなくて、クロスカントリーのレースのように魅力が変わるかもしれない。