ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

嫌なヤツ

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初めて会った時ヤツのハンデは13、自分は14だった。
本気で競技をやって少しでも上手くなろうと、当時値段が安くなっていた「遠いけれども難しくて良いコース」と言う評判だったコースに入会した。

初めての月例はBクラススタートで、同じ組になったヤツもそのコースに入って3ヶ月とかだった。
プレー振りはオレと正反対で、きちんとグリーンから計算してクールにラウンドするタイプ。
対して、オレはともかく「飛ばす」「攻める」しか頭に無く、思い切り振ってボールを引っ叩かなければゴルフやってる気がしないタイプだった。
最初の対決は1打差で負け。
ラウンド後に「またご一緒しませんか?」という言葉に、「もちろん。今度は負けませんよ」と返した。

それから20年以上が経った。
ヤツのハンデは何時もオレより一つ少なかった...自分が13になるとヤツは12にすぐなった。
オレがやっとシングル入りして9になった時には、ヤツは8になった。
やっと6になった時にはヤツは5になっていた...二人ともこれが生涯のベストハンデとなった。

「ずいぶん長い付き合いで、よっぽど仲が良かったんだなあ」だって?
まさか!
ヤツは知れば知る程嫌なヤツだった。
通算するといい勝負ではあった(とオレは思ってるんだが自信は無い)けど、わずかに(?)オレが負け越している...その度にヤツはオレを馬鹿にして鼻で笑いながら、「あなたに負ける気はしませんよ」なんて言いやがる。
「そんなに刻んでやるゴルフなんて、ストレスが溜まってしょうがないだろ」ってオレが言うと、「いつまでも頭を使わない力任せのゴルフしか出来ない人に、ゴルフを語る資格はありませんね」なんて言い返しやがる。
ともかく皮肉ばかりいうヤツで、端で聞いていると何時殴り合いの喧嘩になるのか心配になるほど、険悪な空気でゴルフをやっていたらしい....結構クラブ内で評判になって、一緒の組に入るのをいやがるメンバーもいて、競技委員から注意を受けた事もあった。
まあ、それ以降はあまり大きな声で口には出さない様にしたけど。

嫌いなら一緒に回らなければいい、と他のメンバーは言うんだが...ラウンド後に「私の方がいつも勝つから、そろそろ逃げてもいいですよ」なんて言いやがるから、「あんたこそ、この次負けるのが怖いんだったら他の人とどうぞ」なんて返すと、「では、シーユーアゲイン」「今度は首洗って待ってろよ」って事になってまた一緒になっちまう。
月に一回の月例で「ざまあ見ろ!」と思ったり「コノヤロー殺してやりたい!」なんて...それが20年以上続いていた。
ゴルフ場以外で会いたいとか酒でも飲みたいとか思った事は1回もなかったから、個人的にどんな仕事をしているとかどんな家庭生活を送っているとかは何も知らなかったし、興味も無かった。

まあオレのゴルフは、ヤツを負かしたい、ヤツをギャフンと言わせたい、ヤツに頭を下げさせたいなんて事が情熱の出所だった様な気はしている...そうじゃなきゃ、何事も飽きっぽいオレがこんなに長く同じ趣味に燃え続ける事なんてあり得ないって、自分で認めるわ。

本当にあいつの皮肉たっぷりの言葉にはいつも腹が立っているんだが、特に別れ際にニヤッと笑って人を小馬鹿にしたように言う「シーユーアゲイン」なんてキザな言葉に、特に頭に来ていた(大抵ニギリを取られていたんだから当たり前か)。


去年の秋だった。
11月の月例で、やっぱり最後のパットでオレが負けた。
さんざん皮肉を言われて馬鹿にされた後、ニギリを払ったオレの顔を見ていつもの(勝った時の)あの表情でにやりと笑った。
またあのキザな「シーユーアゲイン」か...なんて思っていたら何も言葉は出さずに、親指を立てて背中を見せた...わずかに「グッドバイ」と言った様に聞こえた。

12月の月例にはヤツは来なかった。
1月も2月も来なかった。
3月になり、支配人に何気なくヤツの事を聞いてみた。
「ああ、Nさんですか....お亡くなりになったとかで、退会して会員権の名義が変わりました。」


詳しい事は誰も知らなかった。
病気なのか事故なのか、それとも他の...住所も年齢も仕事も何一つはっきりしない...と言うより、オレには聞いて調べる情熱も気力も無い。
他にヤツの事を知っている様なメンバーもいなかったし...そりゃあそうだ20年以上オレと回っていたんだから、他のメンバーと親しくなるわきゃないよな。

4月の月例には出なかった。
ゴルフに対する情熱が起きない。
練習や、クラブや技術に対する興味も無くなってしまった。
5月からゴルフに一番良いシーズンなのに、オレはコースに出かける気にならない。


「チクショウ、あのヤローめ...」。
「別れも満足に言えねえで消えちまうなんて、お前は本当にキザで嫌なヤローだ」。




オレはお前の為になんて、絶対に泣きたくなんかねえ。
こんないい天気を、一体どうしてくれるんだ。