ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ゴルフは滅びる?...3

イメージ 1

会員権ブーム。
俗にいう会員権バブル。

後世の人は、こういう「バブルとバブル崩壊」と言うものは欲にかられた者同士の自業自得ゲーム、と思っているだろう。
そんな会員権なんてものに手を出したのは、ゴルフの本質から離れて金儲けをしようとしたゴルファーの風上にもおけない奴らだ、と。

結果的にそのまっただ中にいる事になってしまった、私の体験した事を書いてみる。
前回書いたような事情から、私がゴルフを初体験したのは30代半ば。
面白い事に、私だけではなく廻りでも同じ世代のたくさんの人たちが、ほぼ同時にその頃ゴルフを始めた...会社員なら、その年代になって付き合いでゴルフをしなければならない状況になったんだろうし、自営業の人たちでもほぼ同時にゴルフなるモノを体験する人が増えて食わず嫌いを返上する機会が増えたんだろう。
日教組ばりばりの教師に教育を受け学園闘争を経験して、よくわかりもせずに気持ちの中に「アンチブルジョア」的な思想を植え付けられた我々世代には、ゴルフというものはブルジョアの遊びの典型に思われていたから、始めるまでは抵抗があった。
しかし、実際に体験してみると「やってみたらこんなに面白いゲームは無かった」だった。

そんな人々が急激に増えた影響で、ゴルフブームが起こって来た...日本で初めて「普通の人々」がゴルフをやり始めた時代、という事だった。
...スタートがとり難い、土日しか休めない人にとってはプレーフィーは恐ろしく高い。
誘われるのを待っていたら、いつ次のゴルフが出来るか判らない。
もっともっと上手くなりたい。
ゴルフに熱中した人々が、「会員権を持っていれば...」と思うようになるのは当然の事だった。

もし会員権を買ってメンバーになれば、何時でも一人でもゴルフが出来る...土・日曜日でも安くゴルフが出来る、ハンデを貰って競技も始められる。
そこで当時まだそれほど高くなっていなかった会員権を探してみる...手の届く値段のコースは高速で1時間半は走らなければ行けないほど遠いコース・・・それでもゴルフをやりたくてローンで買う事になる...一方それならば近くのコースを多少高くても買った方がと言う人も。
そんな人たちが急激に増えて会員権の値段が上がり始める。
毎週値段が上がって行く(それほど高くではなく、数万円ずつ)のをみて、「早く買わなければ、手が届かなくなる」と慌てて買いに出る人が増えてくる。
ある時期からいきなり、人気のあるコースが一週間で数十万という単位で上がり始める。
それをみて余計に焦って買いに走り、ますます値段が上がる...という事が始まった。

この当時会員権を買おうと苦労していた人たちは、会員権で儲けようとしていた人はいなかった。
大人になってから初めてゴルフという者に触れ、その魅力を知り、自分の出来る限りずっと長い時間楽しみたいと思ってゴルフをしやすい環境を得ようとしていただけだった、と思う。

しかし、そうして既設のコースが値上がりして相場の平均が1000万を越えようとする頃、「悪意を持った」業者が会員権ブームに乗り込んでくる。
世界的に有名なゴルファーや有名設計家を使って、新設ゴルフ場を作り会員を募集するという流れだ。
まだコースが出来ていなくても、「縁故募集」や「1次会員」と言う名で高額な額面の会員権を売って巨額の金を得る、という手法で。
こうして会員権バブルが始まった。
後年判る事だが、こうした事業を始めた連中は殆どが「金貸し」や「ゴルフに関係ないうさんくさい投資会社」の面々だった。

今の人々は、「なんでそんな新設会員権なんてモノに数千万もつぎ込んで、大損をする事をしてしまったんだ?」とその愚かさを笑うだろう。
しかし、そんな会員権を買ってしまった人の殆どは、善良で見識もありゴルフを本当に愛した人だった。
そして、結局浅はかではあったにしても、バブルへのギャンブル投資とは思えない要素があった。
...そのブーム以前、会員権というモノはずっと値段は上がり続けていた。
大きな金額で上がるのではなく、実需に合わせて堅実に値上がりしていた実績があった。
そして、ゴルファー人口は(こんなに面白いんだから)増え続けるに決まっている、という感触があった。
そして前にも書いた週刊ゴルフ雑誌が伝える、名門コースの「ゴルフライフ」への憧れ。
たとえ金があったにしても自分達の決して入る事の出来ない、閉ざされた名門コースのゴルフライフは既設の大衆コースでは味わう事は決して出来ない。
ところが新設のコースの会員募集の案内には、(嘘っぱちだらけだったけど)魅力的な文言が並んでいた...会員数わずか数百人・有名設計家の作った世界に通用するコース・高速のベントワングリーン・豪華で華やかなクラブハウス・メンバーオンリーのメンバーズルーム・名門コースに負けない優雅な倶楽部ライフ...等々。
こんな言葉にフラフラと(結果として)騙されたと言って、ゴルフやゴルフの歴史に惚れ込んだゴルファーをどうして責められようか...
なけなしの貯金をはたき、ローンまで使ってこんな「縁故募集」の会員権を買ってしまったゴルファーを何人も知っている。
そしてこの新設ゴルフ場の会員権というヤツには、買うゴルファーを安心させるもう一つの罠があった。
やはりどんなにゴルフに惚れ込んだゴルファーであっても、普通の庶民には百万、千万の金で買い物をするには抵抗がある。
そこで、そんな会員権には「これは預託金と言って、預けているだけです。ここに書いてある通り15年経てばご希望の方には返還します。」と言う手法が用いられた。
(普通、既設コースの会員権の額面は「80万」とか「100万」とかの額面が印刷されていて、コースに請求すればその額面で買い取ってもらえたが、当時は会員権相場の方がずっと高くなっていて誰も損して請求するなんて人はいなかった)
この場合の新設コースの額面は「1000万」とか「2000万」とかの額面で、それは「15年預けているだけで、15年経てばその金は請求すれば戻ってくる」という約束だったのだ。
だから「15年預けていて、利子分で名門コースの様なメンバーライフが遅れるのか」と思い、決断した人が多かった。

結果はご存知の通り。
金貸し達の作った新設コースは、会員権で集めた巨額の金を皆他の投資や事業で使い切り、15年後にメンバーに返す金があるコースなんてありはしなかった(コース側は、15年経っていれば多分会員権相場の方が額面より高くなっていて、預託金を返せなんてメンバーはいないだろう、なんて計算をしていたんだろう)。
それどころか、その返還請求を理由に倒産するコースばかりとなり、メンバーとなった者にはプレー権と言う名の軽い権利と、ローンが残っただけだった。
なかには金だけ集めて、コースさえ満足に作らなかった酷い所もあったし。

今にして思えば、そんなコースのメンバーになったゴルファー達が夢見ていたのは、なんとか味わいたいと願った「嘘ばっかりの」名門コースのゴルフライフ。
それは
支配人らとの、打ち解けた挨拶が出来るメンバーライフ。
フロントで、ビジターを横目にメンバーズノートにサインする見栄と気持ち良さ。
月例や理事長杯やクラチャンに挑戦し、どこまでも上達する(可能性がある)競技ゴルフ。
ビジターのようにドタバタと慌ただしくしなくてすむ、ゆったりとした時間が流れるメンバータイム。
そして名門となって行くコースとともに、自分の次の世代にゴルフを伝える長い長いゴルフライフ。

そんな夢が悪党どもの手によって、粉みじんにされた事をどうして笑えよう。
ローンだけが残った会員権購入者の中には、倒産や夜逃げや一家離散の目にあった人も少なくない。
そうして、多くの大損をしたゴルファーが(本来だったら最も熱中したゴルフライフを送っただろうゴルファーが)、ゴルフをやめて退場して行った。
それと同時に、そんなメンバーと次代を一緒に楽しむはずだった未来のゴルファー達も消えた。

この話はバブルの当初に甘い夢を見たゴルファ-の話だが、バブルの最中に金儲けのみを考えて参入したゴルファーもどきの事は関係ない。
このバブル、結局多くのゴルファーが損をしただけで儲けた人なんて殆どいない。
例えば、私のコースは一時期2000万を越えたが、その当時高値で売って儲けたという人はたった一人だけしかいなかった。
何でも、それ以前100万くらいで買っていた会員権をバブルの時に1500万で売ったという(競技で何度か一緒にラウンドした人だが、急に月例に来なくなったのはそれが理由だった)。
...しかし、後年仕事の関係で偶然彼と会った時にその話を聞いたけど...その売った金(あぶく銭)を手にして欲が出て、それで新設コースの会員権を2枚買ってしまい、結局なんにも残らなかったとか。

私は実際にプレーで使っていたので売れなかったけど、当時2000万も今はゼロ...奥さんとプレーするのに買った会員権もあるけど、それも今はゼロ同然...金額的には損をしたって言えばそうだけど、それで競技や倶楽部ライフ(勿論大衆向けのね)や自由なゴルフを楽しんだんだから、不満は無い。

我々のゴルフは、雑誌に紹介する様な名門とは関係がないゴルフ。
それを肝に銘じていないと、こんな風に背伸びし過ぎて足下をすくわれる...雑誌の記事になんか影響されて、絶対に勘違いしちゃいけないぞ。

じゃあ、ゴルフになんの魅力があるのか? はまた次回。