ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

2013年マスターズ雑感

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寝不足が続いて、体にはかなりしんどかった4日間だったけど、今年のマスターズは面白かった。
三日目で独走態勢になってなんにも波乱が起きずに終わったり、最終組がドタバタしている間に何組も前のよく名前もわからない選手があっさりとパットを入れまくって優勝したりなんて試合だと、朝早く起きて見ていたのがみんな無駄になったようで馬鹿馬鹿しくなる。
でも、今回のように最終3組くらいが混戦で、最終ホールまで誰が勝つかわからないなんていう展開が一番面白い。
それにその優勝を争うメンバーに、それぞれいろいろと魅力的なエピソードがあるというのも素晴らしい。

でも自分的には、優勝したかどうかの結果の他にいくつか印象的なシーンがあったのでそれを記録しておきたい。

まず、「さすがに世界のトッププロのショットというのは凄いものだ」と感じさせたのが、2日目15番でのタイガーのショット。
3打目の95ヤードのショット。
やや左足下がりだけど、まあ平らだと言える絶好のライ。
狙い済ましたコントロールショットはピンを直撃して、跳ね返って池に落ちた。
...ここまでは、まあ世界一流のプロならあるだろう...自分たちだって、何回も打てば結構練習場のピンには当てる事ぐらい出来るんだから。
だが凄いと思ったのは、タイガー曰く「2ヤード大きかったので、2ヤード下がって打った」という第5打目。
本当に今度は3打目より2ヤードくらい手前に落ちてピンそばにピタリと止まった。
これは凄い...練習場の同じライからではなく、ドロップした芝の上で2ヤードを狂わずに打ち抜く...世界のトッププロだから出来る技だと思う。
こんな事書くと「プロなんだからそんな事で来て当たり前だ」なんて言う人がいるけれど、そんな事は絶対にない...練習場なら、トッププロ達はどんな距離でもある一定の範囲に打つ事は出来るだろう。
だが、実際のコースのいろいろなライからは、世界の一流プロだって漫画のように打つ事はできない。
そんな事が出来るなら、マスターズでもピンにがんがんぶつけていくだろうし、みんなピンそばに打てているはずだ。
あのタイガーの3打目より20ヤードほど先で、ジム・ヒューリクが3打目を大ダフリして池ポチャした。
その打ち直しを今度はグリーンオーバー..ショットメーカーでアイアンに自信を持っているヒューリクでもそうなる...「本当はもう20ヤード手前のライに置きたかったのが、飛びすぎてしまって急な左足下がりのライになってしまったから」と彼自身がインタビューで言っていた。
その20ヤード手前のライに置いて3打目を打ったタイガーは、刻んだ場合にはそこに打つと計算していたのだと思う。
だけど、ショットには感心して「さすがタイガー」と思ったが、この処置はルール違反で、「誤所からのプレー」で失格、そうなるはずの処置だった。
池に入れた場合は、「元の場所」か「ハザードラインを横切った地点とピンを結んだ後方線上」と「ドロップゾーン」。
タイガーの場合は、この「元の場所」を選択したのだが、「元の場所」というのはルールブックでは「そのボールを打った場所で、ピンに近づかない出来るだけ近く」と書いてある。
調べてみたが具体的に何センチというのはなく、「出来るだけ近く」としか書いてない。
しかしタイガーは自分で「2ヤード後ろにドロップした」と言っている...2ヤードは約1.8メートル...これは明らかに「出来るだけ近くの場所」ではない。
まずタイガーでなかったら、どう見ても2日目で失格が当然の事だろう。
それがまたおかしな「タイガールール」を作ってしまった...タイガーが偉大なチャンピオンなんだったら、自ら失格を申し出るべきだったろう。

そんな、くすぶった雰囲気を明るく爽やかな気分に直してくれたのが、プレーオフアンヘルカブレラの行動。
あまりにも、ラテン系特有の陽気なマイペースに、一緒に回ると調子が狂うと言われるカブレラだけど、彼の言動には相手の足を引っ張るとか、相手のミスを喜ぶというような要素はない。
相手のショットを讃え、自分はそれよりももっと良いショットを打つさ、という態度。
それが、プレーオフ2ホール目のセカンドショットで出た。
アイアンでスコットの3wと同じくらい飛ばしたカブレラは、セカンドをピン下6メートルにつけた。
続いて打ったスコットはピン横4メートルに。
もうかなり暗く雨が強くなったり弱くなったり、そんな時に先に歩いていたカブレラが後ろのスコットに向けて、右手を出して親指を立てた...「グッドショットだ!」と。
慌てたのがスコットだった...歩きながら、左手の手袋をいつものように歯で噛んで外そうとしている時にカブレラにそう合図されたもので、凄くびっくりした顔をして大急ぎで右手の親指を立てた...「あんたもだ」。

いろいろと長い間試合を見てきて、プレーオフでこんなシーンは見た記憶がない。
メジャーのプレーオフなんて、誰もが自分のショットに集中して眉間に皺を寄せて無言で歩いて行く。
良いショットだったら気合いを入れまくりでキャディーと話したり、ミスだったら額に手を当てながら自分を懸命に落ち着かせようとして...相手の事なんていないも同然の態度になるものが多い。
カブレラのこの行動は、ものすごく自然であっさりとしたものだった。
彼はいつもこうなのだろう...この時は、スコットがなんだかホッとしたように見えて、あるいは「敵に塩を送った」結果になったかもしれない。
ここ一番で弱かったスコットがあのパットを入れたのは、このカブレラの行動と、弱気が漂う顔のスコットにずっと何かを強めに語りかけていたキャディーのスティーブの力が大きく影響したような気がする。

そんなカブレラの態度が、今年のマスターズを後味の良いものにしてくれた。
うん、ゴルフってなかなかいいもんだ...そんな気持ちになれただけでも、毎朝早起きした甲斐があったと思う。