ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

練習場

イメージ 1

Sさんは、32歳。
短大を卒業後いろいろなパートを経て、今の会社に就職してから7年になる。
朝7時に家を出て、夜6時半に帰ってくる。
仕事は忙しいが、競合相手が多く業績が伸びないとの理由で、7年の間ほとんど昇給はなくボーナスもほんの「寸志」程度しか出ない。
有給はあるが毎年半分以上は消化できない...休みたくても休ませてもらえない。
残業はあまり無いが、あっても残業代がつく事はほとんどない...以前労働基準法違反だと訴えた社員がいたが、結局改善される事も無くその社員はいじめられて辞めて行った。

そんな会社でも、一応社員として所属していれば生活は安定するために、もう7年も働いて来てしまった。
男性と知り合う機会も無く、生活するのにぎりぎりの給料しかもらえないために、毎月わずかな貯金をするだけで贅沢は一切出来ない。
楽しみは学生時代からの仲間とコミケ用の同人誌を作る事くらい。
みんな貧乏なので気楽だし、サイゼリヤで何時間もおしゃべりするのが今現在一番の楽しみだ。

そしてSさんは2年前から、月に1~2回ゴルフ練習場で2時間打ちっぱなしをするのをストレス解消にしている。
道具は、唯一給料のいい会社に就職した友達にもらったハーフセット。
1ウッドと7番ウッド、5番・7番アイアンとピッチングにサンドウェッジとパターだ。
バッグは練習用の小さなバッグを一緒にもらった。
シューズは買えないので、普通のスニーカー。
手袋は、初め素手でやったら指の皮が剥けたので3枚千円のを買って、もう2年ずっと使っている。
誰にも教わってはいない...テレビなんかを見ての見よう見まね。
ただ、Sさんは高校時代に少しソフトをやった事があるので、野球グリップでクラブを振る。
空振りする事は無く、それなりにフェースには当てられたので時々練習場に行くようになった。

これが面白いと思っているのは、「力一杯に身体を動かして何かを引っ叩く快感」というのが他では体験できないから。
社会に出てからはいつも何かに遠慮していて、力加減せずに思い切り何かをするという事が無かった。
それが、ゴルフ練習場では「コンノヤロ!」なんて言いながら思い切り振り回して力を解放できた。
ただ、ちゃんとあたってボールが奇麗に飛ぶ訳じゃない。
なにしろ思い切り振り回すだけだから、ボールはあっちへ行ったりこっちへ行ったり...
(でも、ごくまれにきちんと当たって、ボールが空に浮かぶように飛んで行く...それは最高に気持ちが良い。)

...はじめの頃、知らないで練習場の1階でやった時には、右の中年も左の老年も「それじゃあダメだよ」とか、「そこはこうやった方がいいよ」とか声を賭けてきて煩わしくてしょうがなかった。
「アタシはただ振り回したいだけだからいいんです」とか「ほっといてください」なんて言えなかったし。
で、今は行くときは2階の右の隅の打席で、みんなに背中を見せるようにして遊んでいる。
右端の打席は、あまり人気がないらしく空いている事が多いし。

上手くなってコースへ行くつもりは無い。
上手くなろうという気もない。
コースに行くために使うお金の余裕は無いし(行くとしたら平日は休めないので土日祝日しか行けない)、これ以上道具を揃える余裕も無い。
(パターは、だから貰ってから触った事も無い)

最近は、ボールが空を長い時間飛んでいる確率がかなり増してきて、そういう球をもっと打ちたいなんて欲は出てきてる。
それに、いつも練習場に行くのは夜なので、夜空に白い球が飛んで行くのしか知らない。
だから...時々、青い空と緑の世界の中を飛ぶ白いボールも見てみたいかな、なんて思ったりする今日この頃。

本当にゴルフをやる余裕もやる気も無いけれど
明日の仕事のあと、また打ちに行ってみようかな...